NoroVirus detection kit

ノロウィルスが大流行である。

このノロウィルス、とても意外なことに、いまだ人工増殖に成功していない。そのため、他のウィルスと比較して、著しく研究が遅れている。人工培養技術を要しないゲノム解析はすでに終了しており、それによってノロウィルスは5つの遺伝子グループに分けられ、このうちヒトに感染しうるのはGⅠとGⅡであるとされる。一般的には、ヒトに感染し、流行するのは、GⅡであることが多い。

病院によって、このノロウィルスを検索するための迅速キットに何を採用しているかは異なるのだが(LAMP法やRT-PCR等、そもそも測定原理が異なる別法を使用している病院もある)、検索方法によって感度が著しく異なる。ある文献*1によれば、迅速キットの感度はRT-PCR結果を基準に比較し、55%程度だと報告している。10人のRT-PCR陽性ノロ患者がいるなら、そのうちの6人くらいしか検出することが出来なかった、あとの4人は「陰性」だと判定された、ということを報告しているわけだ。実験内容や解析内容、試験方法に著しい不備がなければ、一般的にはノロウィルス患者にそのキットを適用した場合、そのような結果になるであろうことを、この文献は示唆している。

このノロウィルス迅速診断用キットは日々改善されており、以前のものほど使い物にならないわけではない。しかし、やはり医療従事者であれば、ノロウィルス迅速診断キットの結果でノロ感染症を除外診断することの潜在的な危険性を知っておくべきである。

医療従事者でないひとは、ノロ感染症のアウトブレイクのニュースを注意深く見てほしい。何十人というノロ患者が出ているにもかかわらず、「○○人からノロが検出された」と報じられている、その数は、ものすごく小さいはずだ。ニュース記事では詳細は不明であるが、「これは全員に検査したよね」ということが想像できるケースでも、陽性者数はきわめて小さい数字になっている。ノロの迅速診断キットの感度は、やはり低いのである。

*1:Thongprachum A, Khamrin P, Tran DN, Okitsu S, Mizuguchi M, Hayakawa S, Maneekarn N, Ushijima H. Evaluation and comparison of the efficiency of immunochromatography methods for norovirus detection. Clin Lab. 2012;58:489-93.