ガーダシルとサーバリクス

これほどデマと憶測と推測がとびかったワクチンも珍しいかもしれない。

おそらく政治的な立場、思想的な立場とごちゃまぜになって、余計にややこしくなっているのだと思われるが、ワクチンなんて所詮ワクチンであり、要するにワクチン以上でも以下もでない。ことHPVワクチンに関して云えば、打ちたきゃ打ちゃいいし、打ちたくなけりゃ打たなかったらいいのである。ゆーするにそれだけのことだ。

もっともやってはいけない勘違いのひとつは、このHPVワクチンは「がんを予防する唯一のワクチン」などではないということだ。100%嘘ではないが、真実でもない。HPVウィルス感染と子宮頸癌に有意な相関が見られるとされるが、しかし子宮頸癌が100%HPVの感染によって起こるわけではないからだ。つまり、HPVワクチンを打てばがんを予防できる可能性があるが、HPVによらない子宮頸癌を予防することは出来ない。HPVワクチンはがんを予防するワクチンではなく、HPV感染症を予防するワクチンに過ぎない(しかもすべての型を予防できているわけではない)。

嘘、おおげさ、まぎらわしい、というやつだ。完全に嘘ではないが、誇大広告に該当するだろう。まぎらわしい、というやつだ。

打てば不妊になるというデマも出た。ちゃんと将来にわたってデータを採れば良いと思うし、データを採ったら明確に否定されるとは思うが、現在の技術力で、外科的処置抜きに強制的に不妊にすることはたぶん出来ない。少なくとも、ワクチンのような注射剤で強制的に不妊にすることは出来ない。「そんなことわからんじゃないか」「政府は知っていて隠しているのだ」「利権が絡んでいるのだ(これ聞き飽きた)」というプチ陰謀論者には、「強制的に不妊にするワクチンがあるなら、それはそれで需要があるよ?」とだけ云っておこう(この言い回しも聞き飽きたね)。

これは嘘、おおげさ、まぎらわしいのうち、嘘、に該当するだろう。ただし、慎重な経過観察とデータ取りを要する。

そーいえば、HPVワクチンに限らず、「じっさいに不妊になっている。だから事実」という主張も繰り返し聞いた。データを出せ、と云うと、頭の固いバリバリ理系のイヤな人みたいだが、「実際に増えてきている。だから事実」という主張には説得力が伴わない。「風が吹いたら桶屋が儲かった」と構造は似ている。理論的な裏付けなしに関連性を説いてはいけない。風評被害が発生する構図はいつもこうだ。もちろん、実証なしに理論が一人歩きすることも許されない。

これはたぶん、嘘、おおげさ、まぎらわしいのうち、おおげさ、に相当する。なんだか関連性があるように思えるのだ。

よくも悪くも、ガーダシルとサーバリクスは政治的に利用され、ものすごく知名度が高くなった。おかげさまでいきなり公費扶助などという話も出て、ワクチンとしては上々である。個人的にものすごく気にいらないのは、ポリオやHibワクチン等、もっと早くやるべきことがあっただろう、という点。でも、他のワクチンも徐々に前進している。裏側でいろんなひとたちが働きかけている。いい方向に転がっていったらいいなと思う。

ちなみに、サーバリクスは16型と18型、ガーダシルは16、18、6、11型をカバーします。ガーダシルは尖圭コンジローマをカバーするため、ガーダシルのほうが費用対効果は優れているのではないかという議論はあります。じっさい、シェア争いの軍配はガーダシルに傾きつつあるようです。

つまり、まったく触れられていませんが、男性が打つのもアリだということです。ここ、もっと強調されてもいいと思いますが。