加熱用と生食用

これについては、もう3年も前に同じことを書いた。つまり、毎年どこかで同じような事件が起きており、決して珍しい話ではない。今回は、たまたまメディアが大きく取り上げただけである。いままで、みんな状況を把握しながら野放しにしてきたのだ。

鮮度の問題でもなければ、衛生管理の問題でもない。肉としてバラすときの捌き方の問題なので、加熱用を生食するのはもはや自傷行為に等しい。日本人は何によらず生で食するのを好むが、「食べ方」としてはきわめて危険な食べ方である。

例を挙げてみよう。

  1. サバの生にはアニサキスがいる。いちど冷凍したら死滅するので、ほとんどのケースで問題ないが、朝市で新鮮なサバを買ってきてバッテラとか作ったりすると感染する。潜伏期間は6時間程度、晩飯に食って夜中に発症、救急行きがおさだまりのコース。地獄の苦しみだそうな。当たり前だが、鮮度の問題ではないし、衛生管理の問題でもない。
  2. 淡水のカニを生で食べるアホはいないと思うが、カニは寄生虫の宝庫である。ぜったいに食べてはいけない。当たり前だが、踊り食いなどもってのほかである。
  3. 北海道ツーリストの間では、わりとエキノコッカスなども有名である。キツネなどの糞から淡水に混じり、加熱処理せずに水を飲むと感染する。山から流れてくる透明無色のわき水をそのまま飲もうとするひとがいるが、北海道ではぜったいにやってはいけない。もちろん鮮度の(以下略)
  4. 鶏の肉にはCampylobacterがいる。これも捌くときに腸管から漏れた糞便に汚染されることが直接の原因である。従って、鮮度の問題では(以下略)
  5. そもそも、大半の細菌性食中毒は「鮮度の問題ではない」。

この手の話をするとき、「それは文化だから」という反応が必ずある。お寿司を加熱処理するアホはまずいないと思うし、加熱したネタしか使えないお寿司なんてお寿司ではないとも思う。この世界からお寿司が消え失せたら寂しいだろう。だが、文化として幼い頃から慣れ親しんできた「生で食べる」という行為はきわめて危険なことなのだ、という自覚は、日本の文化だからこそもっていなければならない。

まあ、個人的には、幼いこどもにユッケを食わせるのはどうかと思うよ、マジで。毎年、救急でそんな話をうんざりしながら聞くんだけど、決まって親はぴんぴんしているんだよなあ。