腸球菌による肺炎、ねえ……?

久しぶりに疑問符でいっぱいの論文読んだ。

論文というか症例報告なんですが、腸球菌って本当に肺炎を起こすんでしょうか。こういうことって個人的な印象レベルで物が云えないので、けっきょく個別の症例報告は意味をなさないと思うんですが、久しぶりに突っ込みどころ満載の論文を見つけたので真面目に一読してみました。個人的には腸球菌とCandidaは貪食像がはっきり確認できないかぎりは肺炎を起こしていない、という結論です。

疑問点はたくさん。

  1. 入院時喀痰検査にCandidaしか検出されていない → 何かすでに抗生剤を飲んでいたのではないか?
    • 本当にCandidaが肺炎を起こしている+うまく喀痰採取したらこういう結果にはなるかもしれない。もしくは常在菌を報告しないシステムなのか。どちらにせよ詳細不明。
  2. CTMに反応した → 起炎菌がCandidaであることはありえない
    • 酵母様真菌は一般的な抗生剤に全く反応しない。従って、この時点でCandidaが犯人である可能性はものすごく低くなる。
    • 抗生剤の投与歴がない → 入院時喀痰検査でCandidaのみであるなら、おそらくCandidaの単独犯ではない。
    • 抗生剤の投与歴がある → 入院時喀痰検査でCandidaのみであるなら、おそらく原因菌はその抗生剤によって死滅し、その残骸を見ているだけにすぎない。したがって、起炎菌はおそらくCTMに反応を示す一般細菌である可能性がある。
  3. じきに件のE.faeciumが検出されるようになった。この時点でE.faeciumとCandidaによる感染と考え、VCMを使いだした。
    • 急速に酸素飽和度の改善を認めたとあるため、VCMがスペクトラムに含まれる何らかの菌が犯人であった可能性が高い?
    • この論文の著者らは気がついていないのだろうか?E.faeciumを多剤耐性菌と表現しているが、もともとE.faeciumは耐性傾向が強く、この程度の耐性は驚くに値しない。
    • もちろん、CTMにも耐性である。従って、CTMの投与で改善を認めた本症例では、E.faeciumが最初から感染症に関係していた可能性はきわめて低い。というか、ほぼないと云ってもよい。
    • 筆者らこの肺炎を市中肺炎と考え、E.faeciumによるものだと考察で述べている。しかし、以上のことから本症例において、E.faeiumが市中感染の起炎菌とは考えにくい。
    • っていうか、ありえねえよ。誰だ、これ査読したの。

情報が圧倒的に足りませーん。たぶんやってないと思いますが、血液培養の結果がありません。vegetationがないという記述があるため、おそらくIEは念頭にあったと思いますが(循環器医だし)、だったら血液培養の結果が知りたいですね。経胸心エコーでvegetationが見えないという事実は、≠IEではありません。フォローの仕方が中途半端ではないかと思います。

どうやら逆流もあるので、この症例ではIEもかなり強く疑われます。経食エコーできればよかったとは思いますが、なかなか難しいかな……画像が改善しないのはどうでもいいです。画像は白血球浸潤やその他諸々の要因が重なって起きるただの現象で、これと治療経過は一致しませんし、相関もしません。レ線メインでフォローするのは意味ないっす。

心不全でも咳は出ますので、心不全の程度が知りたかったかな……個人的には、やはり血液培養の結果がないのがイタイ。MSSAによるIEの可能性をまず最初に疑っちゃいますねえ。透析患者だし。……ちゅうわけで、わりと右心系、肺動脈当たりにvegeがあればいろいろ矛盾しないかなと思うのですが、どんなもんですかねえ。

さいきんIE、IEとしつこく云い続けたせいか、臨床側の反応が「はいはい、もう確認しましたよ」みたいなノリになってきました。わりと効果があったのかも。これはいいことなのか、悪いことなのか……