帝京大の院内感染事例について

このような「院内感染記事」を見るといつも思うことだが、たぶん一般人には医療関係者の思考回路は理解できないんだろうなと思う。普通の人は「病院に入院して院内感染なんてもってのほか」だと考えるしそれが当然なのだが、医療スタッフもそう思って活動してはいても、結局は「院内感染を100%防ぐことは出来ない」と考えている(と思う)。これは怠慢ではなく、そこに病院があって、免疫の落ちている患者がいる以上、可能性を小さくすることは出来るが、100%防止するなんてことは原理的に不可能なのである。従って、「どうやって感染の可能性を小さくするか」、「どうやってリカバリするか」、「どうやってこの教訓を将来に活かすか」が重要であり、感染が起きたこと自体は事実として受け止めていくしかないのだと思う。帝京大での事例の反省点はおそらく、「保健所に連絡しなかったこと」ではなく、「なぜICTが機能しなかったのか」だ。

第一、院内感染発生時に保健所に連絡しないといけないという法的根拠ってあったっけ?って思うんですが、どーなんですかね?MRSAですら、全数把握じゃないですよ、たしか(MRSAなんかは全数把握する必要はないですが)。多剤耐性緑膿菌は5類で基幹定点把握ですが、たとえば多剤耐性アシネトバクターなんかは法的に届け出根拠はありません。従って、問題は保健所に届け出なかったことではない。耐性菌であることが問題であるなら、それはもうおそらく国家レベルで抗生剤の使用方法をコントロールしないと、多剤耐性菌の発生をコントロールすることは不可能でしょう。ある病院で厳密にコントロールすることが可能であったとしても、隣の病院の管理がずさんでコントロールできていなかった場合、患者のやりとりで菌が移動する可能性があるからです。

これも考えればわかる通り、多剤耐性菌の発生の可能性をかぎりなく小さくすることは可能ですが、抗生剤を使い続けるかぎり、多剤耐性菌を撲滅することは不可能です。それに、国家レベルで抗生剤の使用をコントロールすることは不可能でしょう。というより、こういっちゃ何ですが、医療のド素人さんである厚生労働省のお役人さんに現場をコントロールはされたくないですしねえ。

じつは院内感染事例というのは報道されている以上に奥が深い問題であり、決して表面的に扱ってはいけない問題なのだと思います。というか、医療関係の問題すべてがあまりにも皮相的に扱われすぎており、もはやマスコミに「議論」を要する問題について、適切に扱う能力がないことは明らかであると云ってもいいでしょう。

「ホメオパシーには動きの鈍かった警察が、T大の院内感染には活発だね」
「シンプルだからじゃない?(構図が)」

(本日の雑感)