湿潤療法を試してみたよ、その続き

というわけで、驚きの結果である。

まず始めに断っておきたいのは、私はたしかに湿潤療法が理にかなった治療法のひとつだと考えているが、それを万人に推奨しているわけではない、ということです。個人的には、この湿潤療法を行ったことで生じるいかなる結果に対しても何ら責任を負うことも出来ませんし、また負う筋合いもないと考えています。まあ、自分で選択した治療法に自分で責任取れないなんて、話にもならんとは思いますが。

さて、と。定番の前置きはさておいて……

以前に検査室ですっころんだという話を書きましたが、このときに作った傷にラップを巻いて経過を観察しました。諸般の事情でデジカメが使えなかったので傷口の写真はありませんが、経過は良好、とくにトラブルなくほとんど治ってしまいました(まだ完全ではありませんが、いずれ治るでしょう)。打ち付けたことで生じた傷で、傷口の直径が1cm程度、バンドエイドを張るにはすこし傷口が大きく、ほったらかしにしているとじわじわ血がにじみ出てくるという感じで、仕事が終わるまではほったらかし、家に帰って風呂上がりにラップを巻きました。この時点では傷口はまだかさぶたにはなっておらず、じくじく痛んでいたのですが、ラップを巻いてしばらくは痛かったものの、しばらくすると嘘のように痛みが消えて、傷があることすら忘れてしまうような状態に。

翌日は痛みもなく、そのまま仕事を終え、風呂で傷口を水道水で洗ってラップを巻き変えるという、お決まりの処置です。そのまま5日くらい経過を観察しました。この時点でもうラップなしでもほとんど痛まなくなっていたのですが、あとはラップが切れてしまって、じゃあほったらかしてみようということでそのまま観察。ラップを巻くのをやめたらすぐに傷口はかさぶたもどきのようなもので硬くなり、ふさがってしまいました。以後、そのままほったらかしてします。

とまあ、ここまではいろんなひとが書いている事実。ここで面白いのが、私は検査技師で、細菌検査をやっているということ。うふふ。

これが湿潤療法時の創面の培養です。滅菌綿棒でべったり傷口をなでて、そのまま血液寒天培地を使って培養しました。好気的に一昼夜培養したものがコレですが、見る人がみたら一発でわかる、そう!あの黄色ブドウ球菌です(爆)。

念のために申し添えておきますと、これは感染症ではありません。発赤、疼痛、腫脹、まったくなし。あ、患部は少しだけ熱を持っていましたが、注意して触ってみたらそこだけ熱いかな、程度で、本体に発熱はまったくなし。前回の記事では、傷口が臭いと書きましたが、それがこの黄色ブドウ球菌の匂いだったようです(だから嗅ぎなれた匂いなのですが)。ちなみに、MRSAではありませんでした。

褥瘡の培養をするとよく菌が生えてきますが、要するに「コレ」なんですね。「菌がいること」と、「感染を起こしている状態」は別個のものだということです。いや、健常人と免疫の落ちたひとをいっしょにするなという反論もよく聞きますが、褥瘡のラップ療法が一定の結果を出しているところを見れば、この「免疫の落ちた」とか「体力の落ちた」という概念がいかにあやふやで非科学的な表現かということがわかるでしょう。

とまあ、ちょっと面白かったので培養もしてみたんですが、最初にも述べました通り、この記事は湿潤療法を万人に勧めるものではありません。あくまでも、こういうことをしたらこういう結果になったよ、というだけであり、これが普遍的な事実ではないからです。よく医師でも「(昔)こういうことをした」「こういう結果になった」「これは効果があった」という三た論法に陥っているのを見ますが、情報量の多い現代社会ではよくはまる罠のひとつでもあります。注意しましょう。

と、書いてみたものの、深い傷でなければラップ療法はほぼ万人に効果があると思うなー。これに付随して、いずれ手洗い実験をしてみようかと思っております。個人的には外から帰ってきた子供に石けんで手洗いをさせるのは無駄なんじゃないかと思っていまして、流水で十分だろうと。ああ、実験て楽しいなー(笑)