オラペネム

以前、「オラペネムの怪」と称してぜんぜん怪でもなんでもない記事を書いたのですが、これにやたらアクセスがあるようで、非常に申し訳なく思っております。きわめてやる気のない記事であるにも関わらず「オラペネム」で検索すると上位に出てくるあたりが非常に申し訳ない感じで(汗)、まあ勉強がてらもうちょっと真面目な記事を書いてみようかなと思って書いています。あまり科学的な記事も、他にはないようですし。

というわけで、いちばん気になるのが適応……といっても保険収載されている適応ではなく、実際にどの菌に対して効果があるのか、どの菌に対してなら医学的に適応なのか、ということですね(この両者には時として隔たりがある)。以前気になったのは、緑膿菌に効くのかどうか、ということですが、これはダメなようです。ソースはこちらの医薬品インタビューフォーム(PDFなのでご注意ください)。

テビペネムは幅広い抗菌スペクトルを有し、エンテロコッカス・フェシウム及び緑膿菌など一部の菌 種を除く多くの臨床分離株に対し、ペニシリン系、セフェム系抗生物質より強く、注射用カルバペネム 系抗生物質と同程度以上の強い抗菌力を示す。特に、小児の感染症治療上問題となっているペニシリン 耐性肺炎球菌、マクロライド耐性肺炎球菌及びインフルエンザ菌に対しても強い抗菌力を有する。

(太字は私が付け足しました)

P.aeruginosa臨床分離株のMIC分布についての記述もあり、そこには1〜64(μg/ml)に分布すると記載されています。これだけ見るとまったくだめだというわけでもなさそうなのですが、いかんせん経口剤ですので投与時の血中濃度がそれほど高くはならず、臨床的には無効という結果になるようです。引用にはE.faeciumと名指しされていますが、MICを見るかぎりでは、どうやらE.faecalisにも使えなさそうです。腸球菌はアウトっぽい。このあたりはセフェムに似ていますね。CDTRの強化版といった趣です。

でも面白いのがこの薬剤、どうやらPk/Pd的にはAUC/MICが指標になるようです。TAMが指標になる他のβラクタム系とは少し違う感じですね。このため、投与回数も1日2回という承認になっているようです。まあ、投与回数が少ないほうが飲み忘れが少なくていいとは思いますし、医学的に問題なければ投与回数は少ないに限りますね。あと、味もけっこう服薬コンプライアンスに影響するんですが、味については記載が見つけられなかった(苦笑)。バナナ味ですとか書いてあるといいですね(というか、面白いですね)。誰か実際に飲んでみたひとはいないかしらん。

保険適応については、やはり肺炎・中耳炎・副鼻腔炎ということで、おもにターゲットになるのはS.pneumoniae、H.influenzae、B.cata、S.pyogenesあたりです。あとS.aureusや嫌気性菌全般についても比較的いいMICを示しているようですが、Enterococciや非発酵菌は苦手なご様子。腸内細菌全般はいいMICを示し、Enterobacter、Citrobacter、Serratiaあたりもカバーしているようですね。うーむ、ブロードだ。

PRSPやBLNARに対して抗菌活性を有するというのはものすごく強調されていますので(笑)、さすがにいいデータを出していますね。PRSPになると若干MICが上がるようですが、それでも十分に低い値です。

ではPRSP中耳炎のときにオラペネム一択かと云われれば、それほどでもないんじゃないかなあというのがざっと目を通した感想です。AMPC/CVAも中耳炎には使われますが、理論的には、これでPRSPを治療できてしまいます(一日二回投与でTAM>40%を達成できる)。治療できる薬剤が他にもあるんだったら……カルバペネムの出番ではない、ですよねえ。だからオラペネムの出番は、CDTRやAMPC/CVAなどが無効であったとき、に限られるんじゃないかと思います。安易に使う薬剤ではないというのは共通認識だと思いますが、ときどき蜂巣炎にキノロンとか処方されているのを見たりして、そこはかとなく不安になる毎日です。

というわけで、中耳炎以外には使うな、むしろ中耳炎にも使うな、という薬剤なのでした。尿路感染症あたりにも使えそうですが、適応はありません。感想としては、「こりゃ、カルバペネムというより強化セフェムだね」なのでした。カルバペネムって名乗るとかえってややこしくないかな、コレ。