ワクチンは無効か有効か

これは重要な議論です。もっと多くの人が興味を持つべきテーマで、いたずらにワクチンに飛びつくことも、頭からワクチンを拒絶することも、どちらも単なる思考停止だと思います。誰かが教えてくれるのを口を開けて待ってるのではなく、自分から調べて、考えてみるべきです。つねに考えることだけが、進歩を生み出すのではないでしょうか。

というわけで新型ワクチンの話ですが、いまだにウチの病院にははっきりした話が伝わってきません。うーん、ほんとに大丈夫なのかしらん。私自身は別に打たなくてもかまわないと感じていますが、それはべつに効果がないとか副作用が怖いとか思っているわけではなく、ただ単に必要数を確保できないんだったら透析患者さんにまわしてあげてくださいと思っているだけです。どうせ患者さんとは遠いところにいますし、感染するときには感染しますしね。

ワクチンの効果を何で測るかは重要です。これはワクチンを考える上で、重要なベースになるでしょう。たとえば、天然痘はワクチンによって根絶された唯一の感染症ですが、これは天然痘が人間だけに感染する感染症であるということと、ワクチンによって得られる免疫がほぼ一生涯続く終生免疫だということ、そして免疫を持っている個体にはほぼ感染が起こらないことが関係しています。天然痘ワクチンは、「打てば天然痘にかからない」ことが期待できるワクチンです。ここを間違えてはいけないと思います。天然痘ワクチンは、そういう類いのワクチンです。麻疹もそのような効果が期待できますが、完全ではありません(おそらくは天然痘もそうだったのではないかとは思いますが)。

かたやインフルワクチンはどうでしょうか。医療従事者はけっこう毎年打つと思いますが、それでもインフルにやられるひとは後を絶ちません。これはほんとに効果があるのだろうかと思う人はいっぱいいるでしょう。新型インフルワクチンも同様で、新型と云えど所詮インフルには違いありません。このワクチンは、「かからないことが期待できるワクチンではありません」。これは明言されるべきことです。新型ワクチンはおそらく、「重症かを回避できるかもしれないということを期待して打つワクチン」であり、「重症化を避けるワクチン」でもなければ、「打てばかからなくなるワクチン」でもありません。とくに「打てばかからなくなる」と思っている人は多いようで、従って、健康な一般国民がみんな焦って半狂乱になるほどの効果はないのです。おまじないみたいなものだと思いましょう。そして本当にワクチンを必要としているひとにまわしてあげるべきです。

インフルワクチンの効果に疑問符を呈した有名なレポートに「前橋レポート」というのがありますが、このレポートを根拠に「インフルワクチンは無効である」と主張する人が、ことに学校関係者に多いようです。このレポート自体は正しいと思うのですが、読んだ人の解釈の仕方が問題で、ワクチンの効果を「発症するか否か」で測るのだとすれば、おそらくあまり劇的な効果はないでしょう。「死亡率」で測るのであれば、もともとそれほど高くない死亡率ですので、もっと大規模な疫学研究が必要でしょう。考える材料の一つとして前橋レポートは有効だと思いますが、これをしてワクチン無効論の根拠にするには、根拠が脆弱だと感じます。

いずれにせよ、議論することが重要です。そして、結果的に間違っていたとしても、信念をもって行動することが重要だと思います。