感染症の詰め合わせをどうぞ

こんなの見たよ的日々の感染症の詰め合わせ。

膿胸

臭くないどろどろの膿胸。グラム染色上ではレンサ球菌が多数。グラム染色を見てからすぐにドクターをコールしたものの、じつは翌日に退院予定だと聞かされてびっくりする。さらにびっくりしたのが、ほんとに翌日退院してしまった。……う、うーむ、よかったのか、これは?

ちなみに、同定結果は予想通りのSt.intermediusだった。嫌気にしないと生えてこないタイプで、ときどきこういうStreptococciに遭遇する。感受性はとくに変わったところなく、同定に手間がかかってめんどくさいってくらいでどうということはない。

ガス壊疽

重度の糖尿患者さんの足に発生したガス壊疽。検体はかなり臭い。CT上もガスの範囲がかなり広く、患部を触るとぶにぶにするとのこと。まあ、ガス壊疽ですもんね。提出された検体をグラム染色したところ、いろいろな菌がごちゃごちゃ見えるPolymicrobial paternでした。つまるところガス壊疽です(笑)。CKは低く、壊死性筋膜炎ではない様子。

ガス壊疽のグラム染色パターンはシンプルで、おおむねC.perfringensが見えるか、嫌気性菌が多数わっと見えるかのどちらかです。いままでの経験上、糖尿病持ちの患者さんはPolymicrobial paternが多いですが、ガス壊疽の経験自体が少ないので何とも。この場合、好気の菌、突き詰めて云えばP.aeruginosaをカバーしなければならないかどうかについては、よくわからないというのが正直なところです。出てくるときと、出てこないときがあります。まあしかし、こういうときにカルバペネムを使わずしてどうするんだという気もしますので、たいした懸念ではありませんが。

おもしろいことに、壊死組織の表層部分の培養では非発酵菌を含む好気性の菌が多数培養されたのに対して、手術中に採取された深部の壊死組織では、ほとんど好気の菌は見られなかった。そーいうもんでしょうか。

見逃される結核患者

何回か冷や汗が出ましたが、結核をどの程度考慮するのかは難しいところだと思います。一度結核だと疑えば疑いが晴れるまでは結核患者、というのは私はよく云うのですが、鑑別診断にあがらなければ診断のつけようがないわけで、じゃあどの程度結核を考慮したらいいのかと云われると難しいんじゃないかと思いますねえ。結核は奥の深い病気です。肺炎患者を診るときには、無条件で結核の可能性をいちど考慮してみると、そこはかとなく幸せになれるかもしれません。……地域の流行度合いにもよるかとは思いますが。

原因不明の回腸末端炎

外科の回診中に遭遇した経過不明の回腸末端炎。診断名としてはありえないくらいアバウトですが、いろいろな事情があってすでに転院された患者さんで、経過どころか、結論も闇の中です。血液培養からB.melaninogenicaが検出されており、右下腹部に限局した痛みを訴えているので、何らかの関係がありそうですが、よくわかりませんでした。Bacteroidesと云えば感染性大動脈瘤とか、そーゆーマイナな診断が頭に浮かびますが、さすがにCTで見逃すことはないだろうと思います。無念。

β-Dグルカンをどの程度信じたらいいのか

β-Dグルカンがちょろっとあがっているのを有意と採るか否か……個人的な意見としては、「条件が揃わないかぎり意味はない」と考えていますが、β-Dグルカンのちょろあがりを有意ととらえるとover diagnosisになることはほとんど間違いないと思います。で、ときどき血液培養から出てくるCandidaがコンタミかどうかを判断するためにβ-Dグルカンを測定する人がいるんですが、ほとんど意味ありません。ややこしいことに、ときどき陰性になるひとがいるんですよねえ。で、しばらく経ってくると陽性に転化する。グルカンは具体的な数値で結果が出るので逆に駄目なんじゃないかと思わないでもないです。これ、あくまでも迅速検査であって、あんまり妄信するのはよろしくないと思います。


じっさいもっといっぱいあるけど、過去書いた話ばかり。そうか、なんか書けない理由はそこらへんにもあるのかも。