湿潤療法を試してみた

試してみた、というほど厳密には試していないけど、どんなものか体験してみた、くらいかな?

仕事の最中に手を怪我したので、せっかくだからその傷をラップでくるんで湿潤療法っぽく経過を観察してみました。いままで傷は消毒するもの、乾燥させるものだという固定観念があったのですが(傷は消毒しちゃダメだとは思っていますが)、面白いことに、みごとに感染を起こしませんし、またちゃんと治ります。かさぶたを作るよりたぶん治りが早いんじゃないかな。

手を角っちょでぶつけて作った擦過傷なんですが、約1.0cmくらいの、どこにでもあるような(?)ただの傷です。とりあえず水道水で傷口を洗いながして、絆創膏を貼りました。そのまま仕事を続けて、帰宅後、ラップでくるんでそのまんま。浸出液はぐじゅぐじゅと出続けていますし、とうぜん傷口のまわりは湿っていますのでなんだか感染を起こしているよう(もしくは感染を起こしそう)に見えるのですが、これが見事に痛くありません。自慢ではありませんが私は指に感染を起こしたことがあって、感染を起こすと赤くなり(発赤)、腫れ上がり(腫脹)、なにより痛い(疼痛)。この痛いという感覚がもっとも重要で、傷口があろうがなかろうが、感染していると半端なく痛みます。ところが、ラップでくるんだ傷口は、ぐじゅぐじゅしていますが、いまのところ痛みません。感染していないのでしょう。予測される経過は、あとはただ単に治るだけ、だと思われます。

よく膿んでいる傷口を見ると、「体がばい菌と戦っているんだよ」みたいな説明をされていたのですが、これはおそらく間違いなんじゃないかと思われます。正しくは、もう「この部分ではばい菌に負けちゃったんだよ」でしょう。一時的に免疫がばい菌の勢力に負けて押されて、感染症が成立してしまっているから「痛い」のです。で、さらに負け続けるとそこから敗血症になったり、転移して化膿性の病変を作ったりするんでしょうね。免疫が正常に機能してばい菌と戦っている傷口は、おそらく痛くありません。負けたから痛いのです、きっと。

とまあ、写真でもあったらいいんですが、なかなか湿潤療法は面白いと思います。何でもかんでも湿潤療法をすると危険ですが(理論的には、動物咬傷などの深い傷口は要注意だと思われる)、感染屋さんとしては興味深い分野です。


……いままで消毒を推奨し続けた創傷関係の学会が、湿潤療法なり褥創のラップ療法を黙殺し続けるのは、ある意味うなづける気がします。お偉方にとっては、自分たちの理解出来ない「脅威」でしょうね。ただ、だからといって学会の態度として、「黙殺」するのはいかがなものかと思いますがねえ。実績を伴う治療法に対して、自分たちの意見と致命的に違うなら、「我々は湿潤療法に対して意見を持たない」とでも宣言してしまえばいいのに。理論的に理解出来なくても、厳然たる成果を認めることも出来なくなったら、それは医学という実学を学問する学術集団としてはおしまいな気がする。