未滅菌って何だろう

昨日の話の続きなんですが、よく「滅菌容器」ってありますよね。ガンマ線滅菌とかしてあって、菌が一匹もいませんよと標榜している、そのせいかどうかはしりませんが、バカみたいに値段が高いアレです。

よく思うんですが、看護婦さんと主治医ってよく採取容器を間違えますよね(お、云いきった)?間違って未滅菌容器に採取してきて、検査技師は眉をしかめて、「未滅菌容器に採取しやがって、けしからん、けしからん」などとぶつくさつぶやくわけです。一個人の経験上で申し訳ないのですが、変な環境性の雑菌が生えてきた経験が(ほとんど)ありません。おなじくグラム染色用のスライド、あれも未滅菌なので組織のスライドを作るときなんかはいちおうバーナーで焼くのですが、過去に未滅菌スライドを直接数枚グラム染色をしても、菌を見つけることは出来ませんでした。さらにさらに、スライドの表面を綿棒でこすって液体培地で培養してみたことがありますが、同様に菌の発育は見られませんでした(二日しかしませんでしたが)。

臨床があまりにも容器を間違えるので、さいきんでは感覚が麻痺してしまったのか、もう文句だけ云ってそのまま培養することが多くなりました。とくに尿培ですね。蛋白測定の容器とよく間違えられるのですが、まあ変な菌が生えてきたことは皆無です。検査技師的には許されることではないのですが、もう何度も患者さんに採取をお願いするのもアレだし、ま、いっか、ってなもんであります。容器って、検査結果に影響が出るほど菌はいないよ、マジで。

何が云いたいのかというと、数年前に「注射器のシリンジは未滅菌容器なので、採血するときにシリンジ内の血液が逆流し、患者に感染が起こる可能性がある」なんて通達が出まして、医療現場でシリンジが滅菌のものに切り替えられるという事件がありました。当時も「ほんとかよ、マジならデータくれデータ」なんて思っていたのですが、いまとなって思うと、たかがそれだけの菌で患者が感染症を起こすだろうかと疑問に思うことしきりです。おもに免疫不全患者さんが感染を起こすのではないかと云われたようですが、以前にも述べたとおり、免疫不全患者の一角を担う糖尿病患者が、確実に菌に汚染されているはずの衣服の上から針を刺しても感染は起こらないらしいのですね。そうなると、ほんとにそういう科学的なデータがあって(つまり二重盲検かなにかで試験したデータがあって)そういう通達に至ったのかどうか、そのあたりが知りたいなと思います。個人的には、針が刺さりっぱなしになっていなければ、感染なんか起こらない、というのが真実な気がしますね。

だって、みんなバリバリ好中球減少がある患者さんの熱発時に血液培養取るでしょ?で、そのときにバリバリ表皮のブドウ球菌培養したりして、主治医相手に「うーん、これは表皮ブ菌のコンタミですかねえ?」とかいって、話するわけでしょ?好中球ない患者さんあいてに、どんどん表皮のブドウ球菌押し込んでいるじゃないですか。わたしゃ、そうやって感染を起こした例を見たことがないですね(たとえば一日おきに数回血液培養を採って、最初の一日にブドウ球菌が生えてきたけどその後ずっと血液培養は陰性というパターン。よく見ます)。針を留置したら、そこで感染が起きる可能性は否定出来ないと思いますが、シリンジ内の菌を心配しなければならない理由は、乏しいと思いますねえ。

ま、「菌がいなければ感染しない」というのはみんなが共有している幻想みたいなもので、そこかしこで見ることが出来ます。ほんとに正しいのかなと思うことがとても多いことに、さいきん気がつきました。疑問はいくらでも出てきます……