腸球菌が肺炎を起こすだろうか?

とある薬剤師系雑誌を読んでいて思ったこと。

de-escalationの実践例としてケースが載せられていたのですが、心不全患者の重症院内肺炎例、グラム染色でグラム陽性球菌(ブドウ球菌かレンサ球菌かは記載なし)、VCM+MEPMで経験的治療開始とありました。まあ、ここまでならよくあることだと思われます。まあ、グラム染色でグラム陽性球菌しか見えない場合にMEPMを加えるかどうかは議論があるところかと思いますが……個人的には、いらない、気が、する、なあ……自分の鏡検を信じてMEPMを省くというのはちょっと恐ろしいですが、グラム陽性球菌しか見えないのであれば、個人的には不要ではないかと思います。こういう場合はたいてい、MRSAが起炎菌ですし。

ちゃんと膿性痰が採れている場合、おおむね起炎菌はグラム染色上に現れる。現れない起炎菌はマイコプラズマやレジオネラなどの非定型細菌だが、院内肺炎では稀な部類だし、どうせカルバペネムは効果がない。誤嚥性肺炎はスライドと病歴で見当がつくし、グラム陰性桿菌が見えなければMEPMは余計な気がする。まあ、培養結果が返るまではかぶせてもいいのかもしれないが、グラム染色で見えなかったのにちょろっと生えてくる腸内細菌はほとんどの場合は定着菌だと思われる(経験上)。

そう、MRSA、なんだよなあ……フツーは。

で、ここで治療開始6日目に血液培養から腸球菌が検出されて、ABPC+GMに変更して、de-escalationが出来ました、めでたしめでたしという症例なんですが、ここで激しく疑問なのが、「この腸球菌は何?」ということだったりします(GM要るかなあ?ってのも少し疑問ですが)。

フツーなら肺炎から血液に入ったんじゃないの?って思うところですが、腸球菌は基本的に肺炎を起こしません。少なくとも、私は確たる証拠とともに肺炎を起こしているところを見たことはありません。救急外来で肺炎患者を診たときに血液培養を採るかどうかについては意見が分かれると思いますが、個人的には無理して採る必要はないんじゃないかと思っています(陽性率の問題)。ですが、肺炎があって、血液培養が陽性になれば、ほとんどの場合、それが肺炎の起炎菌です。よって、ターゲットは「それ」になります。ここで腸球菌が出てくるとなると、肺炎の起炎菌とはべつに、どこかに感染症があるのではないかと思いませんか?

グラム染色で見えた菌も不明です。通常、ブドウ球菌かレンサ球菌かは区別がつきますし、どっちだったのか記載がないのはハンパです。喀痰培養の結果も記載がない。ここでde-escalationするのは、肺炎の起炎菌を見誤っている気がします。仮に腸球菌が肺炎を起こすとしたら誤嚥性肺炎かと思いますが、だったら嫌気性菌もカバーするべきで、MEPMが外しがたいのではないかと思われます(ABPC/SBTやCTRXでもいいかもしれませんが、重症度と相談でしょうか。MEPMにABPCをかぶせる?)。相談されたら、主治医のリアクションにもよりますが、私はたぶん、やりません。

ちなみに読んでいた雑誌は、「薬局 2009年5月号」です。ケーススタディとしてはちょっと中途半端……かなあ。