オラペネムの怪

追記(2010年3月23日)

さいきん「オラペネム」で検索してこられる方が比較的多くなってきているようなので、こっちのどーでもいいエントリよりはいくぶんマシなこっちの記事をご参照いただければと思います。こちらの記事のほうがまだ科学的で、検索者の目的にかなうかと思われますので。


完全に出遅れた、経口カルバペネムの話。

一般名は「テビペネム ピボキシル」ですが、商品名はオラペネム(小児用細粒10%)だそうです。製造元は明治製菓。小児の肺炎や中耳炎、副鼻腔炎などがおもな使用用途になるそうですが、うーん、ついに悪魔の抗生剤が誕生してしまったか、という感じですね。あまり詳しく内容を把握していないのですが、緑膿菌には効くのかな。いまでもカルバペネムに近いスペクトラムを有する経口剤にファロムがありますが、こちらは緑膿菌をカバーしません。外来で緑膿菌感染(とくに尿路)を押さえるのに使える薬剤になるかも……くらいの感慨しか、私にはありませんが、現場の医師的には歓迎される薬剤なのかな。難治性の中耳炎で治りません治りませんと云って頭抱えている医師の大半が、けっこう不思議な処方の仕方しているんですが……

まず経口のABPCを好む主治医。これはその理由がわからない。吸収はAMPCのほうが断然いいので、あえて使わないといけない理由も見当たりません。外来で注射セフェムを一日一回処方する医師。だいたい難治性になってくるとそういう方向へスライドしていくんですが、ちと量が足りないんじゃないでしょうか。麻酔薬じゃないんだから、用途や特性を無視して、ただ単純にスペクトラムを拡げていくのもどうかと思う。

不思議なことに、中耳炎で耳漏の培養なんかしていても、感受性があるのにずっと検出され続けるというパターンを経験することがあります。だいたいレンサに多いかな……使っている薬剤はだいたい経口セフェム。AMPC/CVAに切り替えたらきれいに消えた、というパターンが多いです。オラペネムもそういう末路を辿るんじゃないかと心配。クラバモックスがある以上、中耳炎治療で出番はないように思えます。

私がオラペネムに期待するのは、やっぱり尿路の緑膿菌感染で外来治療したいとき、くらいでしょうか……以前、キノロンがすべて耐性で、でも外来で治療したいという症例があって、使う薬剤に難渋したことがあります。難渋した、というか、もう何もなかったんですけど。主治医と相談した結果、「もうほっておくしかないかなあ……」とのこと。放っておけるんだったら(つまり尿路の症状がないんだった)、放っておいてもいいんじゃないでしょうか。というか、無理矢理治療せず、放っておいたほうがいいんじゃないでしょうか……

なんてことを思う今日この頃。2009年の上梓を目指しているそうなので、近く現場に出現することでしょう。おお、怖い。