栗本薫を偲ぶ

ここ数日、「栗本薫+病状」のキィワードで検索エンジンから飛んでこられる方が多数いらっしゃるようです。やっぱりそれだけ衝撃的なニュースだったのでしょうか。私自身、医学的にどう考えても完治するとは思いがたかったので覚悟はしていたんですが、やっぱり訃報を目にした瞬間、みぞおちのあたりに何とも形容しがたい重みが走って、ああ、ついに来たかと思いました。もうこれから栗本薫の著作が読めないとなると、やっぱりさみしい……というか、何かが欠けてしまったような感じがします。

私はいちおう男性ですが、栗本薫の著作群のなかでは「朝日のあたる家」がダントツに好きです。もしかしたら、グインサーガよりも影響があったかもしれません。いわゆる「やおい」色の強い作品ですが(というか、そのものですが)、なぜかぜんぜん「やおい」だとは意識せずに読んでいました(「まなし、ちなし、みなし」などということばを知ったのは時期的にほとんど同時のこと)。さいきん文庫本で出版されたらしいということを知りましたが、どうやら挿絵がついているようで、イメージをぶちこわすので買っていません。全国つつ浦々、古本屋を探し歩いて全巻挿絵のないハードカバーでそろえたマニアです(絶版本ですので)。挿絵がついているとイメージが壊れてしまうくらい、強烈なインパクトを私に与えてくれたのは、この本が初めてでした。

グインサーガも126巻すべて読んでいますが(外伝も含めると147冊?)、129巻までは出るそうで、130巻で絶筆だそうです。……「豹頭王の花嫁」まで完結して欲しいけど、誰かが続きを書こうとしても、おそらく書けないだろうなと思います。というか、きっと誰が書いても(違う……)という印象を免れないと思う。そしていっそのことがらりと印象を変えてしまっても、栗本薫を超えるグインサーガの書き手は出て来れないだろうなあ……無条件でそう思ってしまう。さみしい。

ちなみに、私はいまの群像劇と化したグインサーガもわりと好きです。初期のほうしか認めない、栗本薫は凋落した、なんて意見をよく目にしますが、グインサーガに関しては、そんなことないと思いますね。初期はたぶんコナンを意識したばりばりのヒロイックファンタジーですが、途中から群像劇へと変化していきました。作者が意図的に変化させたというのは、その変化に応じて漢字の使い方(開き方)が変化していっているので間違いないでしょう。なんぼなんでも、作者の腕が落ちて漢字に対するセンスが狂うとは思えませんし。推理モノについては、たしかに回を追うごとに、「推理もの」としてのレベルは落ちているように思えますけどね。

まあ何にせよ、唯一無二のものが消えてしまったことに違いはありません。ご冥福をお祈りいたします。