菌量を見るな

そもそも血液培養や穿刺液の培養など液体培地を使って増菌する検体については、菌量を記載して返却することそのものがおかしい気もしますが。

菌量を見て起炎菌かどうかを判断する主治医がいますが、比較的危険な行為ですのでぜひやめることをお勧めします。菌量なんざ培養条件で容易に変化していますので、たとえば尿みたいな定量培養を行う検体でしか菌量をアテにしてはいけません。というか、菌量が多いから起炎菌、という考え方は多くのドクターの頭にこびりついているらしく、以前も、「4+もあるのに感受性試験をしていない。コンタミとは思えない」とか云ってドクターが検査室まで来たことがあります。思えないも何も、長期に抗生剤を連用している患者さんで、喀痰の常在菌が死にきって変わりにS.epidermidisが生えてきて、そのS.epiが4+生えてきていただけなんですけどね。(そのときは同定せずにStaph.speciesで返した)

このパターンの変化球で、E.faecalisってのもあります。これも通常、Enterococcus spで返して問題ないはずです。喀痰から出てきたところで、Enterococciは肺炎を起こさないか、もしくはきわめて起こしにくいはずの菌だからですね。菌量なんか関係ありません。Candidaが4+生えてこようが問題なし。ただ貪食されていたら問題になるかもしれませんが……

菌量がまるきり役に立たないとは云いませんが、起炎性の判断はあくまでも臨床的な判断でしょう。患者さんと出てきた菌を見比べて、患者さんの症状を引き起こしているものは何かを考えることが必要なはず。検査で全ての微生物が検出出来るわけではありませんので、ときには患者さんの病態を見ながら検査結果の解釈の仕方を考える必要もあるはずです。逆に云えば、検査側も患者さんの状態から起炎菌の予想が出来なければならず(でないと培地の組み合わせが雑になる)、検査を実施する前にある程度の精度で起炎菌が推測出来ないといけません。

まあ、外すことも多いですけど……(グラム染色見ながら外した時は穴の中に入って冬眠したくなります)