とある術後のグラム染色像

外科からときどき送られてくる材料のひとつに、腹腔内膿瘍があります。これがなかなか面白い……というか、興味深い感染症です。一概には云いきれないものの、術後の腹腔内膿瘍は一種特徴的なグラム染色像になることが多いように思います。

で、これはいつものことなんですが、主治医は検査伝票に患者さんの情報をほとんど書いてくれません。仕方がないのでこちらでこっそり病状を推測するしかないのですが、たとえば、そうですね……外科から腹腔内膿瘍ということでどろどろの膿瘍が送られてきたとします。当然、グラム染色を実施するわけですが、顕微鏡をのぞいてみるとなかなか面白い。酵母様真菌がたくさん見えるのです。やや壊れた感じの白血球が視野中に見えて、そのなかにちょろちょろと酵母様真菌が見えているとしましょう。これを見て、何を考えるか。

必ずそうだとは云いませんし、それほど経験した数があるわけでもないのですが、私がそう思って確認したほとんどの例でそれは胃のオペ後の吻合不全でした。胃の吻合不全があると、胃の内容物(胃がないときでも)がリークします。胃の内容物ってのは、口腔内の常在菌や腸管内の常在菌が大量に存在しますので、つまりそれらが腹腔内に漏れるわけです。そのなかに、Candidaがいます。つまり、このCandidaは胃の内容物が漏れてきたものなのではないか、と考えられるわけです。Candidaしか見えない理由は簡単、オペ後に投与された抗生剤によって、その他の菌が死滅しているせいですね。

本来、Candida感染症は珍しい部類に入ります。口腔内とか便とかによく定着していますが、たとえば血液とか髄液とか、無菌的な部位から出てくるときには何かしらの理由がある(それは体内異物であったり、好中球減少だったりします)。当然、お腹から出てくるときにも理由があるはずです。そう考えたほうが、何と云うか、すっきりしてスジが通るのではないかと思いませんか?このお腹から出て来たCandidaに病原性があるかどうかについては、何とも請け合えませんが……

でもグラム染色で術後のリークの存在が推測出来るのではないかと思うと、何だかわくわくしませんか?私だけかな……