検査技師のための主治医問答

さらにたまに見かける、抗菌薬不応の血液培養陽性例。
これも検査技師から臨床に働きかけることの出来るかもしれないシーンのひとつかなと思います。

エントリNo3 繰り返し陽性になる血液培養陽性例

救急に運ばれてきた患者さん。炎症反応も強く、DICを呈していたため、主治医は全身感染症を疑って血液培養を1セット採取。翌日、血液培養(+)、グラム染色上はブドウ球菌だった。主治医はCTXを選択しており、検出菌はコンタミネーションかもしれないと疑っている。同定結果はS.aureus(MSSA)であり、確率から云って、とりあえず起炎菌だと思いますよと主治医に報告した。理論上、MSSAであればCTXは効果があるはずだと考えた。

CTXが入って3日目。血液培養がさらに2セット提出あり。翌日、2セットともS.aureus(MSSA)陽性。さらにその翌日、血液培養1セット提出あり、翌日S.aureus(MSSA)陽性。さらにさらに血液培養2セット提出あり、翌日1セットのみ陽性。主治医は、「使っている抗生剤の効果がいまいち」とこぼす。その裏には、「これ、MSSAじゃなくてMRSAなんじゃないの?」という疑念が見え隠れ……

というシーンです。一年に一回くらい、これと似たようなシーンを見かけます。さて……

  • 適切な治療にも関わらず、血培陽性が続く症例
    1. まず確認しなければならないのは体内に異物がないかどうか
      • 出てきた菌の性質にもよるが、検出菌がS.aureusでCVカテーテルや体内異物があれば、そこが感染源である可能性が非常に高い。いきなり異物を摘出しろとは云いにくいが、異物の存在を指摘し、取り除かなければ治療は難しいかもしれないことを伝えたほうがいい。限られた個人的な経験だが、S.aureus関係で異物があって、すっきり再発なしで治った経験はきわめてマレ。
      • 膿瘍の存在の検索。腸腰筋膿瘍が有名かもしれない。S.aureusは膿瘍形成の達人であり、体内のどこかに知らない間に小さな膿瘍を形成したりする。膿瘍が小さいのであれば抗生剤で治療も可能なのかもしれないが、膿瘍は基本的にドレナージなしで治療が完了することはない。化膿性関節炎もいっしょ(これも局所に出来た膿瘍)。
    2. 毎度おなじみ、感染性心内膜炎の存在。
      • いちばん恐ろしいかもしれない。異物もなく、膿瘍形成もない。僧坊弁閉鎖不全などに合併し、S.aureusの場合は困ったことに急性の強烈な感染症になることが多い。抗生剤への反応もいまいちなので、やきもきすることになる。IEなんて教科書でしか見たことがないよ、というドクターにとっては、S.aureusでIEを起こすことがあるというのはいまいちピンと来ないらしいが、現実問題として鑑別にはあがる(ハズ)。
      • 感染性動脈瘤なんかも同様である。こちらはSalmonellaが取りついたり、Bacteroidesが取りついていたりするのが比較的有名。が、現実問題として起炎菌を選ばない。


総じて、抗生剤不応状態、とでも云いましょうか。
いくつかの原因がありますが、いちばんありえそうなシチュエーションが体内異物です。検査側の目的は、その体内異物を培養し、菌を証明すること、です。長い期間、抗生剤で治療するハメに陥りますので、その治療に根拠を与えなければなりません。副作用が出てしまったとき、もしかしたら違うかもと思いながら投与するのか、しっかり必要性がはっきりしていて投与するのか、患者さんに対する説明にも違いが出てくるのではないでしょうか。

個人的な経験では、抗生剤不応状態のもっとも多い(と思われる)原因は、「CVカテーテルの存在」です。みんな抜きたくないので、こちらから指摘しないとずっと放置される傾向があります。術後で生命線になっているときに気軽に抜けないのはわかるのですが、場所を変えて差し替えるとかは出来ないのかなと、いつも思います。

ちなみに上記のコレは何を想定しているか分かりますか?CTXを使っていた理由は、髄膜炎様の症状を呈していたためです(項部硬直あり)。