検査技師のための主治医問答

検査技師が活躍出来るシーンを探そう第二弾。

エントリNo.2 <血液培養からレンサ球菌が出たよ>

血液培養が陽性になりました。さっそくスライドを作ってグラム染色してみると、そこかしこにグラム陽性の球菌がわんさか見えます。ぶつぶつと鳥肌が立ちそうな紫色の球菌で、chainのように長々と連なっています。おお、これぞレンサ球菌、と云ったところです。

個人的には、レンサ球菌が血液培養で陽性になるシーンは限られているように思います。個人的には、まずレンサ状に連なった染色像を見て何を考えるかというと、「これはStreptococciだろうか、それともEnterococciだろうか」ということです。まさしく、それが問題なのです。

主治医は発熱患者でこれはヤバいと思ったら抗生剤を処方します。そのときに何が処方されるのかと云えば、やはりセフェムなのです。副作用も少なく、使いやすいからですね。第何世代を選ぶかは主治医によってさまざまですが、使い慣れたもの、疾患から想定される起炎菌を叩くことを目的に選ぶでしょう。ところが、この連鎖球菌がEnterococciだったら?Enterococciはセフェムがほぼすべて耐性です。どんな量で入れても耐性だと考えるべきです。つまり、見えているレンサ球菌がEnterococciなのかStreptococciなのか、それによって抗生剤の選択に天と地ほどの差があるわけです。……実際にはないんですけどね

さて、染色像の傾向として、もっとも有名なのは、8連以上のchainならStreptococci、というのがあります。私も経験上、おおむねこの傾向に当てはまり、2割程度で外れているか、どちらとも判断出来ないように思います。絶対ではないので、その場で断言はしないようにしていますが、患者さんの状態、基礎疾患、入院か市中か、そのあたりの情報でおおむね判断が出来ないかどうかを探るようにしています。

つまり……

  • 血液培養からレンサ球菌が出てきたよ
    1. 8連以上の長連鎖だと、Streptococciのことが多い。Enterococciが長い連鎖を作ることはあまりない。
      • Streptococciのエントリは不明であることが多い(気がする)。いちばん有名なのはIE、すなわち抜歯後の感染性心内膜炎である。抜歯のエピソードと弁異常がはっきりしているなら、主治医は既にIEの可能性の検討に入っているはず。
      • 抜歯のエピソードがない場合のほうがむしろ要注意であり、たとえ抜歯のエピソードがなくても、IEの可能性は消えてなくなったりはしない。このときにちゃんとIEの可能性を指摘しておくことが問答の第一目的。
      • St.pneumoniaeはもともと双球菌であるため、血液培養中でも双球菌であることが多い。ただし、長いこともあるのでものすごく紛らわしい(ひっかかった経験あり)。この場合は、ほとんどが素直に肺炎である。おそらく喀痰培養で検出されていなくても、血液培養で検出されて肺炎症状があるならSt.pneumoniae肺炎として治療するのが当たり。
    2. 8連以下の短連鎖だと、Enterorococciのことが多い。が、絶対ではない。
      • Enterococciのエントリは、腹部(担癌患者など)や尿路(カテーテル留置)、CVCの感染などであることが多い。これ以外のエントリはあまり見ない気がする。
      • 尿道カテの有無は聞いてもいいように思う。尿培養が出ていないなら、尿培養を催促するのはアリ。
      • もともとそれほど病原性の強い菌ではないため、免疫の抑制された患者、バリアの破綻された患者によく見られる。がん患者においては、Enterococciが検出されること自体が、予後不良因子だと見なされる。


で、その次に問題になるのが、使う抗生剤の選択です。Enterococcusでもっとも多く検出されるのはE.faecalisですが、E.faecalisにはABPCがほぼ必ず効きますので、とりあえずはABPCが候補になります。StreptococciであってもABPCは効きますので、やっぱりABPC。仮に肺炎球菌であってもABPCは(量がきちんと入っていれば、たとえPRSPであろうと)効きますので、やっぱりABPCが候補です。つまり、連鎖球菌である以上、何も考えずにABPCでOKではないかと思います。え、ABPCなんて使ったことないよ、ABPC/SBTならしょっちゅう使ってるけど、なんてDrはABPC/SBTを使いたがるのですが、連鎖球菌はめったにβラクタマーゼを作りませんので、SBTは明らかに余計です。やっぱりABPCなのです。つまり連鎖球菌である以上、たとえ何が出ようと使う抗生剤としてはほぼABPCになるというわけです。(E.faeciumみたいな例外はありますが、染色段階では区別がつきません)

問答の第二目的は、Enterococciのときはセフェムが効かない、という認識を持ってもらうことです。つまり、その経験的治療は的を外している可能性がありますよ、という指摘が出来ればいいのではないかと思います。これは検査側から出来る、重要な情報提供なのではないでしょうか。その意味では、MEPMも危険です。Enterococciに対しては、IPM/CSに比べてMICが高く、臨床的には無効の可能性があります。同じ使うなら、せめてIPM/CSです。

これは裏技ですが、レンサ球菌(+)で菌液を血液寒天に接種したとき、いっしょにCMZのディスクを置いてやると便利です。コロニーが出来た時点で阻止円があればStreptococci、阻止円が出来なければ(つまりセフェムに耐性)Enterococciの可能性が高いと判断出来ます。これを考えてから何例か実験しましたが、いまのところ問題なく同定結果と一致します。CEZでもいいと思いますが、ウチにはCEZのディスクがないもので……

Lancefield抗原を検査出来るなら、それでもいいと思います。D群であれば、Enterococciの可能性が高いです。StreptococciにもD群が少しだけいるので、そのあたりは要注意ですが。Enterococciだと判明すれば、使っている抗生剤の妥当性が判断出来ます。迅速に結果を報告することで、検査に付加価値を見いだせるのではないでしょうか。