放っておいたらどうなるの?

当院の小児科領域で起こる呼吸器感染症では、一般的に喀痰を採取していません。咽頭粘膜の分泌物と鼻汁を培養して、その代用にしています。これがじつはかなり曲者でして、あまりよく知らないのですが、まあかなりの確率で実際の肺炎起炎菌と一致するらしいということで(小児科Dr談)、当院では救急であろうが外来であろうが、軽症であろうが入院患者であろうが、何が何でも咽頭と鼻、という組み合わせです。年齢が小さいときには仕方がないと思うのですが、肺炎患者で一回も喀痰を見たことがないので、そのあたりの妥当性がよくわかりません。

ところで、鼻汁からよくHaemophilusが分離されます。S.pneumoniaeも分離されます。M.catarrhalisも分離されます。この三つは小児科領域でよく目にする菌ですね(中耳炎でよく見ます)。ところが、たとえばPCG耐性のS.pneumoniae。一般的には、第二世代のセフェムは効かないと云われています。当院の小児科はCMZが大好きでして、よく肺炎患者にCMZを投与するんですが(理由は知りません)、培養するとPRSPがよく出てくるんです。ところが患者さんは数日後に元気になって退院していく。理論的には効くはずがないのですが、患者さんは軽快して帰宅する。この矛盾をどう考えたらいいのでしょう。

ひとつは、じつは自然治癒しただけで、抗生剤を投与しただけ無駄だった、というパターン。喀痰で貪食像を確認したわけではないんで、咽頭と鼻汁の培養で出てきた菌がほんとに起炎菌であるかどうかは誰にも分かりません。従って、培養ではただ定着していた菌を見ていただけ、という可能性もあるわけです。自然軽快したと考える根拠もありませんので、真実は誰にも分かりません。

もうひとつは、理論的には効かないと考えられるだけで、じつは効いている、というパターン。これもまあ、あり得る話です。マクロライドがそうですね。白血球内で濃縮されるがために理論的には効果がないはずなのに効いてしまう、ということもあります。一般論として効かないと云われているだけで、じつは効くのかもしれません。個人差があるのかもしれません。濃度を上げてやると効くのかもしれません。検討していないので、ほんとのところは誰にもわかりません。

そういう例を腐るほど見ているのですが、ところで、じゃあ感染症を対症療法だけで放っておくとどうなるんでしょう。致命的になるいくつかの感染症を除いて、対症療法に徹しながら様子を見る、という選択肢はないのかと考えてしまいます。たぶんないのだと思いますが、もしかしたら何も治療しなくても軽快するのかもしれない。何も治療しなくてもいいのかもしれない、と考えてしまうのです。実際のところは、どうなんでしょう。

ちなみに放っておいてもいい細菌感染症もあります。中耳炎なんかがそのようですね。急性下痢症、いわゆる細菌性腸炎のいくつかも、抗生剤で治療する必要がありません。インフルエンザはウィルスですが、これも対症療法だけで治癒しますので、生きるか死ぬかという観点からは、健康成人などにタミフル投与などの積極的な治療を行う必要性はありません。手を出さなくても治っていく感染症って、意外に多いんです。小児科でも、ある程度の年になれば、真の肺炎患者であれば喀痰を取ることは可能ではないかと思います。現状がこれでいいのだろうかと考えることしきりです。