抗生剤と下痢の関係

グラム染色で便中白血球を見たとき、私は勝手にCDtoxinの検出を追加します。外れることも多いのですが、意外によくあたります。環境感染学会では便中白血球とCDtoxinについて調べた発表があったのですが、個人的には便中白血球の存在は有用であると解釈しています(その発表は有意差なしだったように思います)。

で、ときどき「抗生剤なんて処方してないよ」と主治医に云われることがありますが、よくよく調べてみると、ちょっと前に処方歴があったりするわけですね。どうもルチン的な思考として、抗生剤処方→下痢と考えているような気がします。ああ、落とし穴にハマってるなあ、と思うわけです。別に間違ってはいないんですが、どうも抗生剤→下痢というのは単純化し過ぎだと思います。

もちっとことばを追加するなら、抗生剤→腸内細菌層の乱れ→CDの増加・毒素放出→下痢、ですね。別に抗生剤を投与したって腸内細菌層が乱れていなければ、大腸炎にはなりません(たぶんならないです)。腸内細菌層が乱れて、CDが異常増加してはじめて、症状が出る。抗生剤はきっかけに過ぎません。CDADは抗生剤の重要な副作用のひとつですが、あくまでもきっかけに過ぎないんです。従って、3週間前に抗生剤を切ったからCDADはありえない、とか、そういう理屈は成り立ちません。マレですが、ときどきそういう症例を見かけます。

抗生剤投与とCDADの関係を調べたら、ぜったいに関連性はあるはずです。ですが、そこは本質ではない。じつは偽膜性腸炎自体は抗生剤が開発されるずっと前からあったそうで、これがたぶん、いちばんハマりやすい「地震が起きる前に神棚が落ちた。地震の原因は神棚が落ちたことにある」的な関係かなと思います。


ちなみに、個人的にはエンドトキシン吸着療法も同じなんじゃないかなと思うんですが、どうなんでしょう。敗血症の本体は過剰免疫によるサイトカインストームであり、確かにエンドトキシンは炎症・免疫反応を惹起するんですが、一定のラインを超えてしまえばあとはサイトカインストームが自己進行するだけのような気がします。あれは敗血症なりかけのときに実施すれば効果があるかもしれないと考えますが、敗血症が成立してしまえば、救命率は低くなるのではないかと考えるわけです。敗血症疑いの患者全員に試してmotalityがどの程度変わるか検討した研究はないかしら……