環境感染学会に行ってきたよ

というわけで、環境感染学会に参加してきました。

個人的には微生物学会よりも環境感染学会のほうが内容が好みでして、私はこの点でちょっと異端児なのかもしれません。いくつかポスターをチェックして、シンポジウムを拝聴。それぞれまわったのは、結核の話題のシンポジウム、教育セミナの「サーベイランスから始まるゼロへの挑戦」、「中小病院での感染対策に何が必要か」、「アウトブレイクへの対応」、「事例から学ぶ院内感染対策」、感染対策教育のパネルディスカッション、ICTラウンドの話と、MRSAのアクティブサーベイの話など。あとはポスタをちょこちょこ。

個人的に面白かったのは、「アウトブレイクへの対応」。実際にメディアで活躍されているかたをお招きしての模擬記者会見が秀逸でした。いちばんなるほどと思ったのは、テレビメディアの記者役として登壇された井上和彦さんの質問内容とシンポジストの光武先生のご講演内容でして、自分には直接関係ないことながら、なるほどと思いましたねえ。看護長役の……あかん、お名前忘れてもうた、まあそれはともかく、「緊張すると紙に書いてあることをそのまま読んでしまう」というのにはほんとに同感です。事前資料として用意してあったものにフルネームで書いてあった患者さんのお名前を緊張のあまりそのまま読み上げてしまった、という失敗だったのですが、私も以前似たような経験があって、それ以来、私は発表などのときにはぜんぶアドリブでしゃべってます。自分の発表内容くらいアドリブでこなせなくてどうする、という理由でもありますが。

あとは実際のアウトブレイクに対してQFTで接触者検診を実施したところ、細菌学的に結核が証明されたかたでもQFT陰性のひとが少なからずいるということ、そういうひとは3ヶ月後に陽転するひともいれば、最後まで陰性のままのひともいるということ、これは非常に重要な点だと思います。さいきん院内で診断ツールとして使われているのを見かけますが、QFTはあくまでも補助ツールです。もっとも信頼のおけるツールは細菌学的な証明、つまり塗抹と培養です。このあたりが面白かったですね。QFTの感度は8割前後、決して感度がいい検査ではありません。そこそこバランスはいいと思いますが、除外には使えませんので、使うときにはその辺りにお気をつけを。特異度は高いので、(+)に出ればまあ結核かなとは思いますが。

そのあたりかなあ。MRSAのアクティブサーベイランスのセッションは最初から聞いていませんでしたのでアレなんですが、私はこれに対して明確な意見を持っていません。まあお金さえかからなければ、やってもいいかな、くらいですね。そりゃ、入室時に見つけてやれば、保菌率は下がるでしょう。私が唯一拝聴させていただいた発表では、保菌率が下がった、としか述べられていなかったのですが、ではSSIの発生率は下がるのか、院内感染率(定義が曖昧ですが)は下がるのか、そういう言及はなかったように思います。で、年間20万くらいの費用が発生して、MRSAの感染症が発生したら治療費がこれこれかかる、まあひとりでも発生したら年間コストと治療費が等価になってしまうのですが、これはちょっと無理な論理展開なんじゃないかなとそのときは思いました。保菌率を下げるのが主要な命題であればそれでいいと思いますが、以前から私は繰り返しているとおり、患者さんの退院にどれだけ影響があったのか、という部分を検討されていなかったように思いますので、それだけではなんとも云えないところがありますね。ウチでも検討してみてはいかがかとは思いますが、うーん、プロカルシトニンもけっこうしつこく提案しているんだけど、サンプル導入にすらうなづいてもらえない状況。ちょっと無理だろうなあ……

あとは個人的な研究にヒントがあったくらい。アンチバイオグラムを使ってアウトブレイクを早期発見しようという試みですが、すでにポスタ発表があってがっかり。SIRの3値で分類すると測定誤差が厳密に反映されすぎて自動処理には向かず、Iを検査しなかったことにすると(つまりSとRの両方の可能性を考慮すると)、組み合わせが天文学的な数字になって非現実的。ここでギブアップして、とりあえず妥協案でしばらく寝かせていたアイディアでした。やっぱり、私が考える程度のことは、誰かが思いつくわなあ……

抄録集がひとを殺せるくらい分厚いので(毎年分厚くなる)、気になるところをちょろちょろと読んでいこうと思います。来年は沖縄あたりでやってくらさい。