不可解な膿胸?

誤嚥性肺炎の患者さんが来たら、グラム染色の出番です。全部が全部そうだとは云いませんが、性状のいい膿性痰にもかかわらず、扁平上皮細胞が大量に混じったグラム染色像が、誤嚥性肺炎を示唆する鏡検像です。誤嚥性肺炎は進行すれば膿胸を呈する可能性がありますので、出来れば早めに見つけて適切な治療をしてあげたい疾患のひとつだと思います。

まあでも、グラム染色像よりも患者さんの持っている要因のほうが大きなウェイトを占めている疾患なのは間違いないと思いますので、臨床側も、「脳疾患の既往あり」とか、「高齢者である」とか、そういう下地があれば、誤嚥性肺炎を疑うところでしょう。でもそれだけでは確証にはならない。そこに検査側としての意見として、誤嚥性肺炎の可能性を提示出来れば、より根拠のある治療が可能になると思います。誤嚥性肺炎と非定型肺炎とでは、大きな違いです。

んで。
レントゲン上では炎症性の疾患を疑わせるような腫瘤(?)があって、それがいったい何者なのかわからない、きっとTBだと思うんだけど……という検体が来ました。こうやって「TB疑いで至急鏡検してくれ〜」という依頼のいくつかは、ふつうの肺炎だったりします。私の個人的なカウントでは、だいたい2割くらいは明瞭な細菌性肺炎です。ときに、誤嚥性肺炎が混じっています。抗生剤の相談を受けることもたまにありますが、口腔内が汚ければABPC/SBT、高齢者というだけで口腔衛生が比較的いいならCTRX、腎臓がだめだったらCTRX、くらいの返答をしています。マクロライドをかぶせたいときはどうぞ、と勧めていますが、いまのところ明瞭な細菌性肺炎で非定型をカバーせずにこじれた症例は見ていません(私が見逃している可能性も大いにあり)。意外に多くの非定型が細菌性肺炎に合併するそうですが、ここらへんは意見が分かれるところだと思います。

このTB疑い患者さんはなかなか診断がつかず、最終的にはCT下肺生検までいってしまいました。その前に気管支洗浄をして、そのグラム染色像が誤嚥性肺炎を疑わせるような像だったのでいちおう電話でそれを指摘したのですが、誤嚥性肺炎の下地になるような要因がまったく見当たらず、それで生検までいっちゃったようです。TB疑いの患者は疑いが晴れるまで気を許すな、ですね。患者さんは苦しいでしょうが、しっかり診断をつけることは重要なことだと思います。生検材料も誤嚥性肺炎を疑わせる像だったので、あわせて主治医に電話で報告。こっちもよくわからない患者さんだったので話を聞いてみると、以上の話を戸惑いながら教えてくれました。

うーん、この腫瘤は、軽い「膿胸」だと考えていいのかな?培地を見るかぎりでは、どうやらPeptostreptococcusとFusobacteriumの二種類みたいだったけど……?