下肢に発生した蜂窩織炎(?)

整形の先生が持ち込んできたドロドロの膿瘍。グラム染色を見て欲しいということだったので、その場でさっくりスライドを作ってさっそく鏡検。

えらくドロドロの膿瘍だったので、検体の由来を聞いてみたところ、下肢に発生した蜂窩織炎だという返事が返ってきました。うーん、蜂窩織炎っつっても、この膿瘍、ざっと見積もっても40mlくらいはあるぞ……?先生も膿瘍の多さにびっくりしたらしく、しきりに嫌気性菌だと思うと繰り返します。うーん、嫌気性菌ねえ……?まあとりあえず減るもんじゃないしと思ってさっそく匂いをかいでみたんですが、検体からはほとんど匂いがしません。加えて、年齢が若い。この時点でまあ嫌気ではないなと思ったので、おそらくレンサ球菌かブドウ球菌、蜂窩織炎の原因としてはもっとも多い、いわゆるS&Sだろうと考えました。ある程度の当たりをつけて鏡検へ。

染色している間ヒマなので、「すごい膿瘍ですね」というと、「下肢が腫れているだけだと思っていた」とのこと。「まさかこんな膿瘍があるとは思っていなかった」って……いやいやいや、その腫れている原因を突き止めるのがあなたの仕事なのでは?うーむむむ……もちっと整形の先生は感染にうるさいもんだと思っていました。あんまりCRPとか云いたくないんですが、CRPは26でしたから、だれがどう考えてもふつうに感染症です。まあ、そう思ったから培養を出してきたんでしょうし、抗生剤を使っていたんでしょうけど……

グラム染色の結果は、レンサ球菌。いくつか確認してみたんですが、どうやら壊死性筋膜炎ではないらしいと判断しました。グラム染色を見に来ていた先生にひととおり説明して、抗生剤の相談。PCGは使いたくないみたい(どうやら使ったことがないらしい)だったので、切開してドレナージ、あとはいま使っているCEZで様子を見ましょうということに。炎症反応の強さや年齢(30歳ちょっと)からいって、おそらくA群溶血性レンサ球菌でしょうと説明しておいて、あとでこっそりと咽頭用のA群溶連菌キットを使って検査してみると、しっかり陽性でした。これで4例くらい試してみましたが、どうやら膿瘍でもある程度参考に出来そうです(やるときゃ自己責任で)。まあ、グラム染色で方向性はほぼ決まりますので、ここでA群だと判明したところで、マネジメントに影響を及ぼすことはたぶんありませんが。

年に数回でますね、こういう検体。グラム染色の至急鏡検依頼にはびしっと答えてあげたいもんです。

で、じつはウチの整形外科にはこのあとまたまたびっくりの感染症を持ってこられるんですが、それはまた別の話……

追記

最終同定結果は、G群Streptococciでした。おおう、見事に大はずれ(苦笑)。膿瘍のなかの何かの成分に反応してしまったのか、それとも陽性に出たのは単なる偶然なのか、もともと膿瘍に使用すること自体に無理があったのか。まあ、もっと件数を重ねて様子を見る必要がありますが、やはりひとつの検査で断言するには至らないということですね(もちろん主治医には、「可能性が高い」としか表現していません)。ちなみに、メーカさんがサンプルに使ってくださいと云って持ってきてくれた某社のキットでは陰性でした。キット間で差があるのかもしれません。