感染列島を見てきたよ

というわけで、仕事柄見ておかなくっちゃいけないだろうということで、さっそく見てきました。面白かったよ。

以下ネタバレ警報。

ちょっといろいろなところで大味な感じの映画ですが、俳優の好演もあって、いい感じに面白いです。医療関係者は見ておくといいかもしれません。新型インフルエンザが大流行する、いわゆるパンデミックは必ず起こると云われていますから、そのときにどういうことが起こるのか、具体的なイメージをつかんでおくのに最適だと思います。医療関係者は見ておくといい「かも」しれません、というのは、新型インフルエンザではここまでの大混乱は起こらないんじゃないかなと思うからです。

見ていてアレ、おかしいなと思ったのは、インフルエンザにしては伝播様式がおかしいなと思ったこと。最初に診察した松岡先生よりも、あとで血を浴びた安藤先生のほうが発症が早かった。アレ、と思いました。インフルエンザは呼吸器関連のウィルスですので、この時点では伝播様式としてエボラ出血熱のような、出血熱の可能性が浮上するのではないかと思います。新型インフルエンザだと思い込んでいると、じつは違った、ということがありえるわけですね。実際、このウィルスはいったい何だったのか、よくわかりません。劇中では感染が超拡大していたので、空気感染するタイプだったんですかねえ?それとも、エビですか。みんなが日本向け養殖エビを食べてたからあれだけ感染拡大したのか?ここんとこ、厳密にはよくわかりません。描写はインフルエンザなんですが、どうも最初のほうと矛盾しません?

さらに考えていくと、これは脚本さんが悪いのかなぁ……シミュレーションとして、物資の不足という超重要な要因がスコンと抜けています。あれだけバカスカドロドロ出血する感染症で、劇中アレだけ「MAP、MAP」と云っているのに、輸血用血液なんてあっという間に不足するのでは?個人的にはMAPって呼び方もも古いだろー、って思いますが(いまはRCCだと思います)。人工呼吸器の不足はいつものお約束なんで、描写がありましたが……ここらへんもちょいと大味な感じです。

さらに大味なのが、ウィルスの由来を求めて松岡先生がミナス島に飛ぶあたり。唐突すぎて展開についていけませんでした。たしかに疫学上、未知のウィルスの出所を探ることは重要です。超重要事項です。何度くりかえしても繰り返しすぎることはないくらい。でもね、あの場面で、救急医がひとり現場を離れて渡航する意義がわかりません。つーか、感染拡大の可能性があるのに一介の医師に渡航許可なんておりるわきゃありません。おお、これは超展開だ、と思っていたら、あれよあれよと話が進み、バイオハザードばりのゾンビ映像が……さらに銃声まで聞こえてきて、もうこれは映画版バイオハザードなんだと思い込んでしまうところでした(おおげさ)。あれですね、出所を探る必要性は高いのですが、あのウィルスが何であろうが、未知であろうが既知であろうが、やることはまったく変わらないわけですよ。対症療法しかないんですから。あの時点では「未知」のウィルスですから、空気感染するものとして扱うのが当然。現場の一介の医師が渡航するっていうストーリィは、ちょっとどうかなーと思わないでもないです。むむむ。

比較的知名度の高い芸能人がちょい役みたいな役で出演しているのも、びみょーな大味感に多大なる貢献をしています。制作会社のからみでしょうか。なんとももったいない感じです。ストーリィももちっと人間ドラマというか、そういうところにスポットを当てたらきれいにまとまったような気がしないでもない……が、まあ、わざわざこじんまりとまとめちゃう必要もないのかな。人間ドラマに焦点を当てたいのか、パンデミックに焦点を当てたいのか、ストーリィ展開のスケールの大きさに焦点を当てたいのか、どこに焦点を絞ってみたらいいのかよくわからない戸惑いがありました。もったいないです。

まあ、パニック映画の域を脱しきれなかったなあというのが正直なところですが、全体的に見て、大味ながらもそこそこ面白いです。見ても損はしないんじゃないかなぁ……ただ、医療従事者の参考になるかと云えば、かなり明確にノーです。あれだけの条件が揃って社会が混乱に陥ったら、現実はもっとひどいはず。

ちなみにいま公称されているインフルエンザの被害予想はむかしのスペイン風邪を参考にしていると聞いたことがあります。その当時の医療水準といまの医療水準ではぜんぜん比較にならないので、冒頭にも書いた通り、予想よりも被害はだいぶ少ないのではないかと思う次第です。楽観はいけませんけどね。

感染症屋さんの視点で見るといろいろ気になるところがありますが、全体的にみて面白いと思いますよ。……大味ですけどね。ちなみに、

あの人間が多く密集して通気性の悪い閉鎖空間である映画館がいちばん感染を起こしやすいという事実を認識していたひとがあそこにどれだけいたかはビミョーなところです。コワいね。