壊死組織と膿瘍と異物

以前から疑問だったのですが、ちょっと考えてみました。いわく、「原発巣のない血流感染はありえるのか?」。

もっと正確に云うと、血流に菌を供給する感染巣なしに難治性の血流感染が成立するのか、ということです。私が経験するなかなか治らない血培陽性例は、多くの場合において、きわめて常識的な話をもったいぶって書いて申し訳ないのですが、「異物」があるんですよねぇ……先生、酵母様真菌が出ました!……あー、カテーテル、どっかにカテーテルあるよねー、みたいな。酵母様真菌が出る時は、ほぼ例外なくカテーテルがあります。逆に云うと、それ以外のケースはあまりお目にかからない。カテーテルを抜かずに治癒したためしがない、というのは私はよく書きますが、いまでもやっぱり抜かずに治癒した試しがありません。つまり、

  1. 血液培養陽性
  2. カテーテルかもしれないけど、とりあえずファンガード入れちゃえ
  3. 治らないなー、CRPも熱も収まらないなー
  4. 血液培養再検してみようか
  5. やっぱり酵母様真菌が出るなあ
  6. やっぱりカテーテルかもしれないなぁ
  7. 抜くとまた入れるのが嫌だけど、しかたがないぁ……(ぶつぶつ)
  8. えいやっ

というパターンで抜くわけです。だいたいこのケースが多い。この場合、Candidaに対してかなり絶対的な優位性を持っているMCFGを突っ込んでも治らないという事態は、非常事態だと思ってください。この場合は、カテーテルという異物に対して菌が感染巣を作っているために感染症が治癒しません。多くの場合において、基本的にはカテ表面にバイオフィルムが存在し、バイオフィルムの中心部分には血流がないために抗菌薬が届きません。従って、天地がひっくりかえっても治癒しません。神様もびっくりするくらい高濃度、長期間使用して、はじめて効果が出るであろうことが想像されます(IEがそうですね)。

ちなみに、Candida性のIEは手術適応だそうです。つまり、内科的に治療することが難しいということですね。

まあ、ですので、もっと異物に気を使って欲しいなと思うわけです。異物というか、異物もそうなんですが、血流のないところに抗生剤は届かない、という、これだけ取り出して書くと猿でもわかる当たり前のことに気を使って欲しいなと思うわけです。……猿は無理か。

膿瘍もそうですよね。これも難治性血培陽性例になりやすいんですが、膿瘍の中心部分には血流がありませんので、抗生剤が届きません。ときどき膿瘍移行性とかいう単語を聞きますが、私は信用していません。MRSAとS.pneumoniaeが共同で作った膿瘍に、膿瘍移行性を考慮してMINOを選択しました!なんて説明されたこともあります。効くわきゃねーだろと思っていたんですが、主治医いわく、CRPは下がってきてます(出た、魔法のインジケータ、CRP!)とのこと。きっとMRSAに対してMINOが効いているんであって、S.pneumoniaeには絶対無理ですと説明しましたが、結局その症例ではCRPは下げ止まり、症状も改善しませんでした。後にMRSAも復活しましたが、この場合はドレナージするのが先決ですよね。おそらくMINOに出番はありません。膿瘍が相手だからMINOが第一選択です、なんて理屈は、後にも先にもこれっきりです(先は分からんな……)。

そんなこと云ったって、異物や膿瘍がないけど難治性の血培陽性例なんてごろごろあるじゃねーか、という向きもありましょう。すべてが説明出来るわけではありませんが、感染性心内膜炎であったり、大動脈瘤であったり、やっぱり「血流の乏しい何か」が存在します。壊死組織も多いですね。まったく見当のつかない原因不明例というのは、けっこうマレなんじゃないかと思います。