監視の頻度5

病院のリソースにおける制約は、「医師」です。もしくはそれに近い医療従事者である「看護師」でしょう。2004年に臨床研修医制度が始まって医師不足が顕在化してきましたが、それをきっかけにして「生産力の縮小」が起こり、収益が急激に悪化した病院があるのではないかと想像します。理論的に考えて、生産力の減少は収入の減少を引き起こしますので、部門を閉鎖すると傷口が広がるのが普通です。

ところで、病院の経営が満たさなければならないものを考えた時、三つくらい考えられるんじゃないかと思います。つまり、

  1. 患者(エンドユーザの満足)
  2. 病院(経済活動する施設としての満足)
  3. 従業員(経済活動を支える要員としての満足)

この三つを満足させることが、病院として必要な条件じゃないかと考えるわけです。そう考える理由はやはり三つ。患者の満足を損ねると患者が離れていきますし(収入の減少)、そもそも医療サービスを提供するという、生活の根幹を成すサービスを提供しているわけですから当たり前のことでもあります。で、病院がその使命を果たすためには未来にわたって健全に活動できるだけの資金が必要です。従業員は病院の生産力を支えていますので、従業員の満足を損ねることは病院の収入の減少を意味します(必ずそうだとはいいませんが)。

感染対策は患者の満足を高める行為ですが、じつは経済対策としても有効なのではないかと思います。患者の満足は数値に直しがたいところがありますが、うーむ、なんとかお金に換算できるんじゃないかと思うわけです。たとえば、あまりこんなことを考えたくはありませんが、術後感染がすこぶる多い施設があったとして、本来10日で退院できる患者さんが感染によって15日間かかると考えます。舞台は、ICU(ごく小さい規模)にしましょうか。6床くらいで考えて見ましょう。

360日でこの6床を通る患者さんは、10日だった場合は36*6(216)人です。15日だった場合は、24*6(144)人ですね。単純に考えて、72人の差が出ます。一人ひとりの単価によるんでしょうけど、けっこう大きいですよね。もちろんこんな理想的な状況はありえませんが(追いきれないというのもありますが)、術後感染とICUだけで考えても大きいデータとなります。感染対策をすることで平均在院日数(ICUですが)が短くなると言うことが立証できれば、経済的にも効果は大きいと考えられるわけです。…たぶん。

この場合、患者獲得の制約は無視しています。患者数は充足しているものとして考えているわけで、この場合は早く退院させればさせるほど患者の回転数は早くなり、病院の儲けは大きくなる。患者さんの満足度も高くなります。まあ、理屈の上ではいいこと尽くめなのですね。でも、だから感染対策は重要なのだ!と叫んでも、誰も聞いてくれません、かなしいことに。いろいろ考えてみたんですが、私はこれは「適切な評価基準がない」ことが原因なのではないかと考えました。