割り箸事件

これについて書けるほど、事実関係を詳細に把握しているわけではありませんが……

しかし、いろいろ資料を読んでみても、この亡くなられたお子さんを担当された医師が起訴されなければならない理由が理解出来ません。亡くなられたお子さんとご両親にとっては悲劇だったとは思いますが、これは不可抗力だろうと思います。いくつかの不幸が重なって起きた、悲しい結末でしょう。

しかし、逆に云えば、こういう事例で医師が起訴されるようなことがあってはならないのです。この事例で、CTを撮っていれば発見出来たはずだ、というのは、明らかに後付けバイアスでしょう。結論を知っているから、指摘出来ることだと思います。この部分がこの問題の難しいところで、医療者への不信感を作り出しているのではないかと思いますが、どうでしょうか。

つまり、医療という一般の方にはわからないブラックボックスを我々医療従事者は扱っているわけです。よくわからないから、不幸な結果になったときに、ミスがあったのではないかと不信感が募る。しかし、一般の方にとってブラックボックスであるところの医療は、我々医療従事者にとってもブラックボックスなのです。医師はまるで神であるかのごとく、そのブラックボックスのすべてを理解しているわけではないのです。ここが根本的な誤解その1です。我々はブラックボックスの中身を明るく照らすための手段として知識と経験、そして実際的な手技を持ち合わせているだけで、ブラックボックスのすべてを理解しているわけではないのです。照らしきれなかったその闇の中に致死的な「何か」が潜んでいることなんて、決してマレなことではありません。

ノドに刺さった割り箸が折れて残っていることを知っていれば、また違った結果になったはずです。もっと意識レベルが悪ければ、たぶん違った結果になったはずだとも思います。嘔吐や患児の活動性の低さから頭蓋内病変を疑う医療者もいたかもしれませんが……いずれにせよ、いくつかの偶然が重なって起きてしまった悲しい事故であることはたしかでしょう。

ちなみに、割り箸は木片であり、有機物である木片はレントゲン写真にはほとんど写りません。これを救急で読影しろというのは、ちょっと無茶だと思います。