菌量が多いと起炎菌?

結論から云いますと、そんなことはありません。

たとえば、高齢の寝たきりおじいちゃん。老人施設から肺炎患者として運ばれてきました。レントゲンはバリバリの肺炎像、脱水もあって即日入院、痰の性状はP3、グラム染色で太めのグラム陰性桿菌がちょこちょこ見えます。貪食像こそ確認出来なかったものの、培養ではKlebsiella pneumoniaeが4+生えてきました。おお、これが噂に聞く肺炎桿菌による高齢者の肺炎か!と思いつつ、CTMあたりで治療開始。……でもちっともよくならない。なんで?喀痰培養からKlebsiellaが出ているんだから、それが起炎菌でしょ?だって、4+も生えているのに……

このケースでは肺炎様症状が出る二、三日前に外泊しており、血液培養からはS.pneumoniaeが検出されましたとさ、というオチがつきます(喀痰のグラム染色でもS.pneumoniaeを判断しがたいことはままあります)。これは現実の症例をいじった架空の症例ですが、培養に表現されるものがすべてではない、というのは、きわめて現実的な事実です。この場合は、KlebsiellaでS.pneumoniaeが阻害されちゃったんでしょうね。すなわち、菌量が多いからといって、必ずしも起炎菌ではない、ということです。

いや、小児科のドクターに聞かれたのでちょっと……中耳炎のときの鼻腔培養と中耳炎の起炎菌はかなりの確率で一致しますが、耳漏と鼻腔培養の菌が一致しないなんてことはざらにあります。いちばん菌量の少ない菌が中耳炎のフォーカスだった、ということもしょっちゅうです。私の実感として、菌量なんかほとんどあてにならないと思います。もっと見るべきところ、考えるべきところがあり、思考のフォーカスがずれているなあと感じることが多いです。