武勇伝、武勇伝

以前から云っていることですが、私はPAPM/BPという和製抗生剤が嫌いです。理由は簡単、「よくわからない」から。手持ちのデータがほとんどなかったので、使いどころを判断することが出来ず、ちゅうぶらりんな印象しかなかったのでした。

そこでメーカさんに資料を要求してみたんですが、送られてきた論文の症例報告がぜんぶ「武勇伝」だったわけです。つまり、どれそれの疾患に何を投与した→でもダメだった→PAPM/BPを投与してみたよ→患者は快癒した→だからPAPM/BPは有用である!というヤツですね。

脳膿瘍は悩ましい疾患のひとつで、日本の感染症医泣かせです。とくにS.aureus(MSSA)の脳膿瘍。スマートに治療出来る薬剤が、日本にはありません(βラクタマーゼ耐性ペニシリンが日本にはないからです)。その論文には脳膿瘍の症例が載せられていたんですが、起炎菌不明で、いろんな薬剤を投与していました。最終的にはPAPM/BPを投与して治ったよ、という内容だったんですが、この論文を見て「PAPM/BPってすごい」と思うひとは皆無でしょう。因果関係が決定的じゃないからです。症例報告にはこの手の武勇伝もどきがいっぱい転がっていて、ときには明らかな誤診を堂々と載せてあってびっくりすることすらあります(誰か指摘してあげてください)。先にS.aureusの脳膿瘍の話しを書きましたが、本来抗生剤は起炎菌と患者さんの事情に応じて選択されるべきもので、中枢神経系感染症だから、たとえ起炎菌がMSSAでもCEZは使えません、といった具合に、ケースバイケースなのです。PAPM/BPで脳膿瘍が快癒したからといって、脳膿瘍にPAPM/BPを使うべき、というわけではありません。もちろん他の薬剤と比較して有意差が明確であれば、その治療がスタンダードになっていくでしょう。個々のケースを扱う症例報告では、抗生剤そのものの有用性、優位性は、何ひとつ読み取れないのではないかと思います。

つまり、その資料では私が知りたかったことは何ひとつわからなかったのでした。症例報告が無意味だというつもりは毛頭ありませんが、メーカさんに資料をくださいといって、有用性ばかりを強調したパンフレットや症例報告が送られてくるのには、いささかうんざりです。