専門用語の落とし穴

医療従事者は専門用語をよく使います。あれは別に小難しく説明しようとしているわけではなく、そのほうが楽だからなんですね。腹部の状態を表現するのに、腹膜刺激症状(+)、圧痛(+)、筋性防御(+)とか云った方が、圧倒的に早い。医療従事者にだけは伝わる言外のニュアンスもあります。これはあくまでも想像ですが、カルテを書くために生まれてきた、一種の別言語といってもいいのかもしれません。症状をよく表現し、わかりやすく(言語が通じる相手にとっては、ですが)、労力は少ない。

ま、そのせいで苦労することもよくあるんですけどねえ。

0か1、(+)か(-)かで症状を記載するくせをつけると、どうにも白か黒かで判断する人間が出来上がるようです。人間って、そんなに簡単に白黒つかないもので、この症状が(+)だから、これはたぶんこうだろう、と判断していくと、一歩踏み違えるととんでもない方向に行ってしまいます。重症だからカルバペネム、とかもそうですね。何かと何かを一対一で結びつけるのは得意だけれども……という人が多いような気がします。これは後輩を教えていてもそう思いますね。もっと抽象的に広く捉えないと、隙間からこぼれていくものが必ずあります。もっと具体的に、とか云いますけど、インプットは抽象的に、アウトプットは具体的に、状況に応じて使い分けることが必要で、そういったことは中学校で教えておくべきことがらなのではないでしょうか。

教育がうんぬんするつもりはありませんが、小学校では道具の存在を、中学校では道具の使い方を、高校では使い方の応用を、大学では道具を用いた研究を、大学院ではさらなる研究のみをするべきだと私は思います。