風邪に抗生剤は必要か?

結論から云って、まったく必要ないという意見が大勢です。

私も必要ないだろうと考えています。風邪症候群の原因は基本的にウィルスであり、まず抗生剤は意味がありません。抗生剤によって風邪の経過が早まることはありませんので、この点で意味がありません。また細菌感染症の二次感染予防という名目で投与される「予防薬」としての意味合いも、ほとんどないようです。二次感染を予防出来る割合は1/4000だそうですので、効果はないといってもいいと思われます。

ちょっと別の視点で考えてみましょう。抗生剤を投与する意味としては、起炎菌を抗生剤によって叩き感染症の治癒を促す、といったものです。感染症を治す主体は患者さん自身の免疫力ですが、抗生剤は起炎菌の数を減らすお手伝いをします。決して、症状を改善するための薬ではない、と考えます。結果、症状は改善するだけです。つ、ま、り、投与時機を逃した百日咳とか、抗生剤の投与が症状の改善に役立たないことがはっきりしている感染症とか、そういうものに投与する意味もありません。とうぜん、この点からも風邪に投与する意味はありません。耐性菌を作るだけで、まったくの無駄です。

じゃ、投与された薬剤がどのくらい効くのさ、という話しになりますが、これが若干悲惨な状況で、まず耐性肺炎球菌にはセフェム系飲み薬が効きません。効果が見込めそうなのは、CDTRの二倍量投与くらいでしょうか。キノロンはS.pneumoniaeに対していい適応になります(が、乱用され気味です)。S.pneumoniaeにマクロライド、テトラサイクリンはほぼ無効です。AZMは、場合によっては効くかもしれません。PISPに対してもセフェム系飲み薬は怪しく、PSSPであればセフェム系は大丈夫でしょう。つまり、いきなり話しを飛躍させると、中途半端に投与するとセフェム系飲み薬はPISP+PRPSを選択する可能性があります。H.inに対しては、やはり似たような感じで、BLNARにはCDTRの二倍量投与が効果があるかもしれません。これまた中途半端な投与はBLNARを選択する可能性があります。キノロンはよい適応です(乱用され気味ですが!)。P.aeruginosaはご存知の通り、飲み薬が効きません。キノロンがよい適応になります(乱用されていますが!)。B.catarrhalisには、ほとんどの薬が問題なく効きます。ですが、検出頻度は比較的低めです。小児の鼻によく住み着いていますね。

というわけで、結局、中途半端な薬の投与は耐性菌を選択する可能性がある、というのは、ほぼ明らかな事案です。どころか、予防したい微生物に対して効果がないものが多い。これはいったいどうしたものか、と思わざるを得ませんね。

さて、抗生剤の適応を疫学的に考えれば、「まわりにうつさない」というのは、重要なことかと思います。これに関してはあまりよく知らないので華麗にスルーしたいところですが、伝染性の強烈なもので、とくに抗生剤によって治癒の経過を早めて得をする感染症って何があるでしょう?風邪とよく似た症状を持って、職場などでよく伝播し、風邪の二次感染症として発現する微生物感染症……うーん?百日咳くらいしか……思いつかんなァ……

まあ、このくらいの理由で、風邪に投与するのはあまりよくないと考えています。実際、現場で投与されている先生方には、いや、風邪に投与すると患者さんは治りが早いって云うよ?という意見はあるんじゃないかと思います。そのあたりの「なぜ」をすり合わすと、もう少し進んだ議論なり結論なりになりそうです。