次の一手

有効な抗生剤が投与されているにも関わらずコンスタントに陽性になり続ける血液培養は要注意サインです。結論から云ってしまうと、これは血管内に何かしらの感染巣がある可能性を示唆しています。

だいたい主治医もこの頃には「何かおかしい……」と感じているものですが、なかにはそのまま抗生剤で押してしまおうとする不届きものがいて、口を出した方がいいのかどうか、戸惑うことしきりです。おかしいと感じたらその違和感を追求するのがあるべき姿のはず。いいかげん、抗生剤が効かない=真菌?耐性菌??、じゃあ次は「強い」抗生剤で、という連立方程式しか思いつかないのは問題だと思います。頭はつかわんとボケるぞ。

とくにここ最近数回書いた、抗生剤が効かない=耐性菌?というのは、どこの病院でも見られる普遍的な思考パターンのようです。あながち間違いではないパターンも当然ありますが、おおむねそれは耐性菌のせいではありません。感受性試験の結果を見ながら選んだ抗生剤を使っている場合はなおさらですね。血液培養がコンスタントに陽性になり続ける場合、耐性菌よりも先に考えないといけない可能性、それが血管内感染症の可能性です。

Candidaだったらカテーテルが、ブドウ球菌であってもカテーテルが第一容疑者です。カテーテルがフォーカスだった場合、これを抜き去ることなしには、感染をコントロールすることは難しい。とくに起炎菌がCandidaだった場合、カテ抜去なしに治療出来た例を私はまだ見たことがないです(ほとんどの例で抜去しているせいもありますが、抜いていない場合は例外なく菌が検出され続けました)。もしカテーテルがない場合、それでもブドウ球菌やCandidaが出続けるなら、それはどこかに感染性動脈瘤があったり、心内膜炎があったり、血管内に何がしかの感染がある可能性を考えなければなりません。非常にやっかいな状態だと認識する必要性があります。

困ったことに、ここで抗生剤を使って押し切ろうとする主治医は、救われようがありません。この救われようがないことを地でやった症例を私は見たことがあります。とてもインパクトのある症例でした……診断をつけるこの重要性、感染フォーカスを同定することの重要を教えてくれた症例です。同時に、いまだに後悔している症例でもあります。

コンスタントに陽性になり続ける血液培養を見たら、私はまずカテーテルの存在を、次にIEの可能性を主治医に尋ねるようにしています。若干うっとおしがられるかなとも思いますが、鑑別にはあがってもいいはずなのに、気がつかないひとがいるんだから仕方ありません。がんばって先を読んで、診断がつくまで次の一手を提案し続けるだけです。