CD toxinが陽性にならない

種々の情報から抗菌薬関連腸炎がほとんど確信出来ていても、肝心のCD toxinの検査が陽性にならないことがあります。キットの感度の問題なのか、それとも判断が間違っているのか、それこそ判断に迷うシーンです。

80歳男性。詳細はわからないものの、つい最近まで他院に入院していた患者さんのようです。もうちょっと詳しいことを聞いておけばよかったとは思いますが、まああんまり聞きかじるのもアレですしね……画像などから腸炎の診断がついて、CPZを投与しようということになったようです。たまたま時間外に私が検査室にいて、それで相談されたので発覚したケースです。

主治医曰く、「CPZなら、たいていの腸炎には効きますよね?」

まあ、たぶん効きますけど……と、何のことかさっぱりな私が聞き返します。「腸炎と診断された患者さんがいる」、「他院から転送されてきた」らしい、ということはわかりました。入院患者だったという情報が得られたその時点で、ほとんど食中毒の可能性が消えてしまいます(もちろん可能性としては残します)。「外泊してませんよね?」、「何か変なもの食べてないですよね?」、と尋ねると、「それは大丈夫なはず」とのこと。抗生剤の履歴を尋ねると、案の定LVFXが出てきました。この時点で、疑いはピークに。もちろん、抗菌薬関連腸炎です。もし本当にそうなら、CPZを落とすなんてもっての他です。

とりあえず時間外だったので、便の採取をお願いしました。綿棒採取だったのですが、さっそく便のグラム染色を見たところ、便中白血球がちょこちょこ見えます。扁平上皮細胞がやたら見えるんですが、これに意味があるのかどうかわかりません。健常者の便にはあまり見えないので何か意味があるんだろうとは思いますが……とにかく、これで私は、「ああ、またCDADだ」と思ってCD toxinを引っ掛けてみたんですが、見事に陰性。???と疑問符だらけになってしまいました。

「レジデントのための感染症診療マニュアル」によると、便中白血球が見える入院患者の「大腸型」の疾患の場合、想起するべき疾患に潰瘍性大腸炎や虚血性腸炎、偽膜性腸炎などが挙げられています。炎症性大腸疾患ですね。病棟患者で抗菌薬が絡んだ場合、まずCDADの可能性が圧倒的です。ですので、検査が陰性であったとしても、疑いは捨てられないと思っています。こんかいはそれほど症状もひどくないらしく、後日再検査するようにお願いして、様子を見てもらうことにしました。オプションとして、便中白血球を根拠にフラジールを使ってもよいのではないか、とは云ってみましたが、主治医は難色を示していましたので、しばらくは様子見だと思います。診断がつかないときは、内視鏡をどうぞ、とも云ってみましたが、これも難色気味。どないせいっちゅうねん。

CD toxin 検出キットも万能ではありません。ときに偽陰性を出しますが、そういうときの判断は難しいと思います。このケースはどちらかまだわかりません。判明した時点で追記したいと思います。

追記

ほぼ予想通り、見事にCD toxin(+)でした。前回の敗因は、けっきょく綿棒採取の検体だったせいかなと思います。メーカは綿棒採取の検体でもOKと云っていたような気がするんですが、綿棒採取だと検体として不適切な可能性があるということだと思います。むかーしむかしに、便の粘性部分と粘性でない部分とでわけてCampylobacterを培養したことがあるんですが、見事に粘性部分しか生えてこなくてびっくりしたことがあります。これと同じ理由なのかな。