抗生剤、何を選びましょう?

ときどき、抗生剤の選択について相談を受けます。もちろんこっちは医師ではないので、私は提案するだけです。最終的な判断は医師によりますが、自分の提案がある程度の影響力を持っているということを自覚させられる瞬間です。

ところで、医師が抗生剤を選択するときには、いったい何を基準にしているのでしょうか。私が何か相談を受けるときはたいてい感染症がこんがらがって訳が分からない状態になっているか、すでに敗血症を起こして責任臓器も明確になっている状態であることがほとんどです。後者は教科書的な理屈が通用しやすいのですが、前者はもうほとんど返答出来ません。感染症の専門医を呼んでこい、といった感じです。

ところが、こうやって電話口で簡単に相談されるときがいちばん見落としが多く、まずいことを口走ってしまうことが多いわけですね。医療従事者でなくても、仕事をしている社会人ならいちどくらいは経験があるのではないかと推察します。思うに、医療事故の多くはこういったささやかなミスから続発するものなんです。ほんとうは抗生剤を選択するのであっても、患者さんの病歴は欲しいし、状態を把握して、よく考えてからでなければならないはずですよね……怖いので自分が関わった症例はメモしているんですが、ちゃんと軽快した例もあれば軽快しなかった例もあり、戦績はあまりよくありません。完全スカってのはないんですが、スカしかけた症例もたまにあります。

  • 抗生剤を選択するときに、あたまの中で考えること
    1. 原因微生物は?
      • 敗血症で菌名までわかっているときは把握しやすい。菌名までいかずとも、グラム染色性と形態が分かればかなり絞れる。
      • こんがらがっているときは、いままで出てきた培養から原因菌を考えないといけないが、これは正直、検査側からは不可能だと思う。培養に表現されない情報はむちゃくちゃ多いと感じている。
    2. 責任臓器は?
      • 選ぶとき、ある程度の参考にはする。あまり気にしないが、移行性の悪い臓器は専門家のフィールドで、私が相談を受けることはまずないからである。移行性の悪い三大臓器は、髄液、眼球、前立腺だと云われる。それぞれきちんと把握していないと、脳膿瘍にCLDMを勧めてしまうようなバカをやらかす(私のことです。幸い、他剤で嫌気性菌をカバーしていたので、この選択は経過に影響を与えませんでしたが…)。
      • しかし、胆嚢炎だったらCPZ/SBTでなければ治療出来ないなんてことはない。胆汁移行性ということばは、製薬メーカの造語だと思った方がよい。ペニシリンも胆嚢で濃縮される傾向があり、じつはABPC/SBTでも問題なく治療が可能であることが多いとされる。
    3. 腎臓は大丈夫?
      • 腎臓のよくない患者に対してIPM/CSとかは勧めづらい(てんかんとかあったりしたら目も当てられない)。ABPC/SBTの高用量も同じ。誤嚥性肺炎を見たときに多くの医師がCAZ+CLDMを使うように思うが、口腔内の荒れている患者さんにはABPC/SBT、比較的きれいな患者さんにはCTRXなどでもいけると思う。腎臓の悪い方には、とりあえずCTRXを提案することがある。ICUに放り込まなければならない症例については、しばらくはIPM/CSを勧めているが、これで腎臓が悪くててんかん持ちで……のような複雑化した症例だと、経験のない私にはほとんどお手上げであります。


このエントリは、自分の頭を整理するためのものです。あとでまた追記します。