矛盾しない

異論はあると思うのだが、医療の本質は「確率論」だと思う。これはちょっと前のエントリで書いたと思うのだが、ひとつの疾患を前にして、これこれの可能性が高いと思う、ということで診断している。もちろん、ひとりの患者さんにひとつの疾患ならほとんど問題ないのだが、ひとりの患者さんにいくつもの疾患が併存しているから話がややこしい。この傾向は高齢者になればなるほど顕著で、ベースとなる疾患は各所に悪影響を及ぼす。感染症に影響を与える疾患も多い。

というわけで、グラム染色を見るときは、ベースの疾患に気を配りましょう(話が飛んだ)。

いやあ、さいきんよくドクターがグラム染色を学びに検査室に来るんですが、みーんな何かを勘違いしているんですよねえ。抗菌薬の適正使用にグラム染色が不可欠というのはよく云われるところですが、グラム染色を見ればたちどころに起炎菌が判明し、それに対して適切な抗菌薬が選択出来る、と思っているようです。そんな気がしますね。云うまでもなく、それは間違い。そこまで簡単だと思われるのは心外でもありますし、検鏡したらすべてがたちどころに判明するなんて思ってもらっても困ります。

検査材料や基礎疾患、患者さんのパラメータなどを考慮してはじめて、ちゃんとした菌名を予測することが出来ると思うわけです。そもそも菌の同定からして、生化学的性状を検査して、この可能性が一番高い、ということで同定しているわけで、その意味ではレアタイプなどはミスる可能性もあるわけですよね。こっちがまったく想定していなかったような、思いもよらない性状を示すことがたまにあります。

たとえば、COPDの急性増悪なら、スライドを見る前にだいたいの菌名を予測出来るわけです。これは問診や丁寧な診察で起炎菌が想像できる、ということを意味しています。推測は推測にすぎないので、その推測に根拠を与えるためにグラム染色を行うわけです。推測の可能性を補強するような結果が出れば、「現状ではすべてに矛盾しない」ということになります。あくまでも、現状では、です。新しい要素が出て来たりすると、結果が覆ることもあると思います。

グラム染色でそのものずばりを答えるのは、とても難しいです。でも世の中、そういう極みにのぼっちゃった方もいらっしゃるわけで、そういう境地に達することが出来ればいいなと思います。まあ、でもアレは一種の(というか紛れもなく)才能だよなあ……