免疫不全患者のマネージメント

って、タイトルほど大した内容じゃないんですけど……

少し相談されたので、ステロイドと感染症について勉強しなおしました。この免疫不全というのは意外にまぎらわしいことばで、いわゆる「免疫不全」は大きく二種類にわけられます。すなわち、「好中球減少」と「Tcell機能不全(細胞性免疫不全)」ですね。それぞれ、注意するべき菌が違います。免疫不全ということばでひとくくりにしてしまってはいけないくらい、このふたつの免疫不全は性格が違います。

こんかいの症例はステロイドを使用されているので、細胞性免疫不全の方ですね。このステロイドというのは感染症屋さん的には非常に厄介な薬剤でして、炎症反応がマスクされてしまうことがあります。炎症反応が乏しいので、重大な感染を見逃してしまいがちなのです。微熱でも裏に重要な感染が隠れているかもしれないと疑いながら、原因を探っていくことになります。

そもそも事の発端は、腹水ドレナージの廃液からレンサ球菌とグラム陰性桿菌、カンジダが出て来たことにあります。すべての菌が貪食されていましたので、即座に主治医に連絡しました。主治医から聞いた話では、患者さんはPD術後2週間くらいだということ。PDってのは、膵頭十二指腸切除術のことですね。見えている菌は胃穿孔などのときに見られる菌にそっくりで、術後にリークしたのかと思いました。控えめに聞いてみると、CT撮ってみたけどそんな事はないよ、という返事。さらによく聞いてみると、じつはステロイドやっているんです、というではありませんか。ステロイドパルスとまではいかないまでも量的にはかなり多い。実にいやーな感じがします。

とりあえず血液培養は必ず取ってくださいとお願いし、さらにグルカンも測ってみました。こちらはほとんど予想通りの陰性で、さもありなんという感じ。このドレナージ廃液から出て来ている菌がほんとうに感染症を引き起こしているのだと仮定したとすると、この感染にステロイドの使用はあまり関係がなさそうな気がします。細胞性免疫不全に関係する微生物は、クリプトコッカス、リステリア、抗酸菌。まれにサルモネラ。臓器移植と縁の深い各種糸状菌、とくにアスペルギルス。そしてPneumo.carinii。いやいや、いまはP.jiroveciiか。

カンジダの感染は細胞性免疫不全では増えませんので(カンジダは通常、好中球によってコントロールされていると考えられます)、やはりどこか吻合部から漏れていると考えるのがいまの段階では矛盾が少なそうです。発熱やCRPの上昇はほとんどありませんが、そこはそれ、ステロイドのコワいところだと思います。投与されているのを知らなかったら、ぜんぜん気がつかないよ。

ところで、この場合、抗生剤はどうしたらいいでしょうかーーというのが、二つ目の相談の内容です。はてさて……単剤で押さえるならIPM/CS?腸球菌相手にMEPMはダメですので、カルバペネムならIPM/CSでしょうか。ここで私はアホなことを口走ったのですが、ベストチョイスは何になるんでしょうか。主治医の話から、容態はある程度安定していると感じたので、培養結果が出るまでCMZはどうでしょう、などと提案してみたんですが、後になってよく考えてみると、消化器を切ったならCMZは術後に投与されているはずで、この場合はダメな選択かもしれませんね。カルバペネムを除けて考えるなら、CZOPでしょうか。これなら単剤でもいけそうです。腎機能は悪くないので、ぎりぎりいっぱい使って欲しいところですね。

ここで出て来たCandidaをどう扱ったらいいのか、よくわかりません。抗真菌剤を投与するべきかどうか。投与するならFLCZだと思いますが、はたしてどう提案したらいいのか困りました。いちおう様子を見てみますという返事をもらいましたが、正直に云って、どう答えても正解にたどり着ける気がしません。この手のややこしい感染症を相談されても、私では経験が足りなさすぎます……