S.aureusの病原性

腸球菌の病原性に続いて、こんどは黄色ブドウ球菌いってみましょう。

S.aureusは膿瘍を作る達人で、いろいろなところに膿瘍を作って病原性を発揮します。表皮であれば蜂窩織炎、関節であれば化膿性関節炎。違法薬物の常用者であれば心内膜炎、脳膿瘍や血管炎、腸腰菌膿瘍など各種膿瘍の原因菌です。ようは無菌材料から出て来たら、ほとんど間違いなく起炎菌として扱って問題ない、ということになります。一方では、肺炎などの起炎菌になることは稀なようです。ウチではMRSA肺炎という病名はよく外科で目にしますが、S.aureusが肺炎を起こすのは、インフルエンザなどの疾患が先行しているという前提があります。ただの風邪でMRSA肺炎を起こすことは稀でしょうし、長期入院患者の呼吸器材料からは遅かれ早かれMRSAが出てくる運命にあります。培養で検出しても、ただそこにいただけ、定着状態だと判断出来る症例は多いです。

客観的に見て、S.aureusが腸炎を起こしていると断言出来る症例はきわめて稀です。そのようなシチュエーションでは、おおむねCDtoxinが陽性になります。CDtoxinが陰性で、さらにMRSAが便からべったり、という状況はありますが、これもほとんど稀なシチュエーションです。あわててVCMを投与してみたけど、MRSAが便から消えていないのに下痢は収まっちゃった、ということもあります。これはキットの偽陰性症例(検出限界)でしょうか。

論文では上記シチュエーションに全身症状がともなった例がありましたが、そういう症例だけがMRSA腸炎として検討の価値があると思います。もっとも、それはMRSA腸炎というよりもむしろMRSA敗血症だろうと考えられる症例でしたが……

血液から出て来た場合は、基本的にコンタミではありません。ほとんど否定してもかまわないかと思います。私はコンタミかどうかを聞かれた場合、ほとんどの場合は起炎菌として返答します。栄養カテーテルなどを確認して、もしあるなら感染の有無を検討してくださいと返答することにしています。かなりの確率であたりますね。


ちなみに、鼻汁から出て来た場合、ほとんどの場合は定着菌でしょう。咽頭から出て来た場合も同様です。呼吸器からのS.aureusは貪色像がなければ、ただの汚染だと考えられます。