感染性心内膜炎を叩く

黙って教科書通りの治療をするのが最善です。おしまい。

逆に云うと、教科書に載っている治療法以外の方法を採ってはいけない感染症であるとも云えます。この感染性心内膜炎に関しては先人が積み重ねて来た膨大な量のスタディがあり、治療期間や使用する薬剤、投与する方法など、もうほとんど確立されたと云ってもいい分野だと思います。それでも過去のスタディから外れる症例はあると思いますが、それ以外のスタンダードな症例に関しては、教科書以外の方法を採ってはいけない感染症です。

ごくごく稀にアホなことを書いた市販本がありますが、アホが伝染しますので、すぐさま焚書にするべきでしょう。

起炎菌としてもっともメジャなものはStreptococciです。これはエピソードとして抜歯があり、それに伴う菌血症から続発することが多いパターンです。血液培養からStreptococciが検出されたら、必ずIEの存在を考えるべきでしょう。ほとんど持続的にvegetationから菌が放出されますので、血液培養は持続的に陽性になる可能性が高い。日頃、感染症を考えるときに炎症反応ばかり見ていると、

1.WBC正常、2.CRP正常、3.血液培養からS.viridans groupが検出された
1+2+3=コンタミネーション!

などという思考パターンをたどることになり、ながーい医師人生の中で必ず1回はIEを見落とすことになるでしょう。これは確率の問題であって、60年医師をやってりゃ、間違いなく1回はやります。コンタミネーションと断じてしまう前に、必ずIEの可能性を否定するべきです。経胸心エコーの診断率はそれほど高くないので、疑わしい場合は経食道心エコーを行うとよいでしょう。ほとんどに心雑音があるので、逆に云えば心雑音がなければIEの可能性は低くなります。あとWBC正常、CRP正常例であっても血沈だけは亢進しますので、疑わしい症例は血沈を測っておくとよいでしょう。

あと亜急性心内膜炎で状態が安定している場合は、エンピリックに治療を開始するよりも、起炎菌を同定することに全力を傾ける方がよいとされているようです。長期間の抗菌薬投与が必要になる疾患ですので、出来るだけ検査結果に基づいて抗菌薬を投与する方がよいでしょう。Streptococciが起炎菌である場合、PCGのMICが0.12を超える場合はGMをかまさなければなりませんので、MICの測定が必要であるという点が検査としては重要な点になってきます。

というわけで、起炎菌がStreptococciである場合、第一選択はPCGになります。PCGのMICが0.12を超えるような場合はGMをかぶせる、感受性良好な場合は単剤で。4week〜6weekの治療期間だったと思います。治療効果の判定は血培の陰性化で測る、PCGの持続点滴は24時間はやめた方がいいかもしれない(PCG自体が不安定)、GMは一回投与法を用いてはならない、くらいがはっきりしている注意点でしょうか。

感染性心内膜炎は奥の深い感染症ですね……