PRSPにABPC/SBT

PRSPに対してABPC/SBTをあえて使う理由は何ひとつありません。理由は簡単で、S.pneumoniaeはβラクタマーゼを産生しないからです。本来、S.pneumoniae肺炎に対してはPCGで十分であり、おそらくPRSPに対してでもPCGで治療が可能なのではないかと思います。あえて勧めたことはありませんが……

きょうは、主治医から「PRSPに対してABPC/SBTを使っていたんだけど、ABPC/SBTの感受性はどうだろうか」という質問を受けました。ウチはS.pneumoniaeに対してABPC/SBTのMICを測定していません。測定キットのなかに含まれていないというのは大きな理由のひとつとしてあるんですが、そもそも測定する理由がありません。主治医曰く、「ABPC/SBTで治っちゃったよ。PRSPに対しても効くんじゃないの?」とのこと。ううん、実際のところ、どうなんだろう。

PCGのMIC値はたしか4だったので、理論的にはTAM≧40%にすれば効果はあるように思います。ようはそれを体内で実現出来ないから「効かない」ワケで、実現出来れば「効く」わけです。個人的には、感染心内膜炎なみの高用量を使えばPCGでも効くんじゃないかなーっと思っているんですが、ちゃんと計算したことはなかったですね。髄膜炎では明らかにダメですが、肺炎ならいけるんじゃないかと(個人的には)考えていました。あらためて聞かれると、根拠がないので返答に困ります。

問題は、PRSPなのにAMPC/CVAはSだと判定されているという事実です。ここを突っ込まれて、正直困りました。同じクラスですから、ABPC/SBTとAMPC/CVAはほぼ同じ薬効があると仮定しても差し支えないと思います。すると、AMPC/CVAがSなら、ABPC/SBTもSだろうと推測出来るわけです。実際にはABPC/SBTに判定基準が存在しないので判断出来ないんですが、私と議論しながらすぐにそこを突っ込んできたので、困ったというより驚きました。頭の回転早いやつぁ、うらやましいなぁ。

というわけで、答えは「保険診療用量ぎりぎりいっぱい使えば効くと思いますが、あえてお勧めはしません。」です。ABPC/SBTというβラクタマーゼ阻害剤との合剤を使う理由がないからです。個人的にはPCGでもいけるだろうと思っていますが、根拠がないので、この場合、状態のいい患者さんにはLVFXを勧めます。飲み薬ですので制約が多いんですが、重症感が強くなければいちばん確実かな、と。まあS.pneumoniae肺炎で入院してきて、重症感のない患者ってのもいないかもしれませんが、ケースバイケースで……(苦笑

(こういうときに、LVFXの注射薬がないのはおかしいと思いますねえ。CPFXでも、PZFXでも代用出来ません)

こんかいの患者は、60歳、PRSP肺炎の患者です。個人的にはPCGをお勧めしますが、LVFXでもOKですし、ABPC/SBTでもOKでしょう。不適切な選択ですが、まったくのスカにはなりません。ガイドラインにはABPC/SBTと書いてあるようです。他にもいろいろ議論しましたが、こういう主治医は面白いですね。勉強になります。