リスクマネジメント

日本はリスクマネジメントの下手な国として有名です。理由はいくつかあると思いますが、とりわけ存在するリスクを「ゼロ」にしようとする精神が大きく影響しているのではないかと私は思っています。……というのは、以前にも書いた気がするなあ。

以前、BSE検査の問題が大きくメディアに取り上げられたとき、米国が「抜き取り検査」を主張するのに対して、日本は「全数検査」を主張しました。とても象徴的な事例だと思います。どちらがいいという話ではありませんよ。私もどちらかというと全数検査派ですし……ただ、これが「日本的」な思考パターンなのだ、という話です。

ワクチン接種後に副作用が重篤化した症例がでたことから、2005年に日本脳炎の定期接種が中断されました。これは副作用が少ない新型ワクチンが1年後に実用化されることが期待されていたために取られた処置だったのですが、ワクチンの実用化はずるずると遅れて、いまのところ、もっとも早くて2009年頃だと云われています。もう旧型のワクチンの製造は止まっているらしいという話を聞いたことがありますので(ウラ取ってませんが)、限られたワクチンをどうやって使うかが重要になってきますね。

しかし、副作用が原因で定期接種が中断されたのに、希望する人には接種が可能というのはどういうことなんでしょうね?公共機関で広報をやめてしまったら、年頃の子供をもつ親はいったいどこで情報を得ればいいのでしょう?情報を必要としているひとたちに正しい情報が行き渡っていないのが現状です。まずは必要としているひとたちに、正しい情報を与えることが必要です。蚊に刺されないように注意を喚起する、なんて、笑い話にしかなりません。夏に1回も蚊に刺されない子供がいるんだったら、見てみたいものです。まあ、現状ではどうしようもないんですが……

副作用といっても、もっとも重篤な状態であるADEMを発症する確率は、ほんの微々たるものです。100万人にひとり、という、きわめてマレな確率で、副作用とされる症状も一時的な発熱などに留まることが多いとされています。ただ2005年の症状はきわめて重篤だったので、それで定期接種が中断されてしまったのですね。背景として、新型ワクチン実用化の見込みがあったこと、生活環境の改善などによって蚊の駆除が進んだこと、日本脳炎ウィルスはヒトヒト感染しないことが挙げられます。

この事態を予測し、指摘した専門家がいたはずです。日本脳炎は、発症すれば20〜40%近くとも云われており、危険な感染症です。インフォームドコンセントを推奨している組織のやることとは思えない処置で、こういうところはお役所なんだなあと思うことしきり。それと同時に、一般の人も「リスクのまったくない医療措置などあり得ないのだ」ということを、もっと理解するべきだと思います。

日本人は、「リスクをすべて取り除く」ことにこだわるため、失敗することが多いように思います。院内感染対策でもそうですね。MRSA保菌者だから転院が断られるなんて、あってはいけないことです。MRSAなんて、誰でももっているものですし……