S.pneumoniae肺炎(おそらく)

久しぶりのグラム染色スライドです。87歳男性、肺炎様症状で運ばれてきました。

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強拡大の画像しかありませんが、喀痰が採れなかったらしく、検体は気管内吸引物でした。Miller-Jones分類で云えばP1程度、Geckler分類でG5です。視野中にフィブリン糸が見え、多核の白血球が4+、そこかしこに莢膜を持ったグラム陽性の双球菌が観察されました。写真では判別しづらいのですが、多核白血球の中に空胞も観察出来ます。S.pneumoniaeによる急性の炎症像だと判断し、救急センタのドクタにはそのように伝えました。抗菌薬は、「ABPC/SBTを使おうと思っているが、どうだろうか?」と聞かれたので、「初期治療としては十分だと思います」と答えておきました。ほんとはPCGでも大丈夫なんですが、さすがに主治医の意見を押しのけてまでPCGを主張出来ませんでした……

肺炎球菌の耐性機序はPBP2'の変異によるものなので、この場合、βラクタマーゼ阻害剤をかませる理由がまったくありません。ABPCでも十分いけますし、PCGでも大丈夫なくらいです。というか、無駄にいろんな菌をカバーするので、ABPC/SBTは適切ではない可能性があります。誤嚥性肺炎像には見えませんので、この場合はせめてABPCになるでしょう。

実際に使われた量は、ABPC/SBT:3g×2/dayです。な、なぜ……同じ1日量6gを使うんだったら、1.5g×4/dayの方が薬効は高くなります。βラクタム系の薬剤は時間依存性の薬剤ですので、一般的にTAM>40%を実現するために頻回投与することが原則です。分割した方が薬効は高くなります。

ついでですので、ここで、Cockcroft-Gaultの計算式を使って、クレアチニンクリアランスの推定値を出してみましょうか。

CrCL={(140-87)×60}/{72×0.8}=55くらい?

体重(というか身長)がわからなかったので、適当に60kgとしました。血清クレアチニン値は、正確には0.82(mg/dl)でしたので、適当に四捨五入しました。Scr=0.8といえば(いちおう)正常範囲内ですが、87歳という年齢ですので、それ相応に腎機能が落ちているはず、というのは念頭に置いておかないといけないと思います。量の調整が必要なほどではないようですが……

救急で測定した検査結果としては、WBC:1万程度、CRP7.7程度です。いい加減で申し訳ない(笑)。


そして、1日後。

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これがABPC/SBTを投与して1日経過した喀痰です。Miller-Jones分類でP2程度、Geckler分類ではG3-G4程度でしょうか。相変わらずフィブリン糸は見えますし多核の白血球も多く見えていますが、菌がきれいに消えています(昨日の像ではここにグラム陽性の菌がぽつぽつと見えました)。薬が効いている証拠だと考えて、ほぼ差し支えないと思います。全体像は炎症像ですが、抗菌薬が投与されたことを知っているので問題はありません。

検査結果としては、WBC:12000程度、CRP:7.8程度です。検査結果としては、とくに改善の徴候は見当たらないと云えると思いますが、通常、これらの値は遅れて改善する項目なので、私は参考程度でいいと思っています。

ちなみに、このS.pneumoniaeのABPC/SBTの感受性結果はSでした。とくに他に考慮すべき要素がなければ、とりあえずこのままで治癒していくのではないかと予想しています。