突発性細菌性腹膜炎を叩く

これもちょこちょこ見られる疾患のひとつだと思います。ドクタはよくSBPと略しますので、略語を知っていないとまったく会話になりません。検査データを見るだけで、だいたいこの疾患の存在は想像出来ます。あとは腹水から細菌が出てきたら確定的です。

突発性細菌性腹膜炎(Spotaneous bacterial peritonitis)は、肝硬変などの肝臓疾患を有する患者に続発する、腹膜炎の一種です。腹水を伴う非代償性肝硬変に合併します。腹腔と外部に連絡路がないことが特徴で、マクロな穿孔などが見当たらず、腹腔の内外で腹膜炎を起こす積極的な理由が見当たらない場合がSBPに該当します。サンフォード「熱病」によると、肝硬変を持っている患者の1年以内発症率は30%程度だそうで、これはかなり高い確率だと云えるでしょう。

起炎菌としては、腸内細菌科が60%程度、S.pneumoniaeが15%程度、Enterococcusが10%程度だとされています。嫌気性菌が炎症に絡むことは1%以下だとされているので、ほとんど考慮する必要はありません。基本的に単一の菌による感染ですので、腸内細菌とS.pneumoniaeをカバーしておけば、経験的にはOKだと考えます。なぜかS.pneumoniaeが原因菌に挙げられていますが、いままでSBPでS.pneumoniaeに遭遇したことがありませんので、何とも云えません。特徴的ですね。

以上のことから、SBPが疑われた際の経験的な治療として、CTRXなんてどうでしょうか。腸内細菌をほとんどカバーし、S.pneumoniaeまでカバーします。その意味ではCTXでもOKですが、CTRXだったら1日1回で済みますので……別にCTX 2g×3/dayなんてのでもいいんじゃないかと思います。お腹まわりの感染ですのでCMZはどうだと聞かれますが、S.pneumoniaeのカバーが微妙なので、あえておすすめはしていません。確率的にはそれでもいけるんじゃないかと思いますが……


恒例のツリー。

  1. 突発性細菌性腹膜炎
    • 腹水を伴う肝硬変患者などに多く発生する。
    • 診断基準として、多核白血球 >250/μlが有名。
      1. たとえ培養結果が陰性であっても、 >500/μlでSBPと診断しうるとされる。
      2. 血液培養ボトルに採取し、培養することで検出率を上げることが出来る。量はボトルの至適量をきっちり。標準だったら、たぶん10cc。
      3. 塗抹鏡検で菌を証明するのは難しいかも……
    • 起炎菌として考えられるのは、腸内細菌科60%、S.pneumoniaeが15%。このふたつで全体の80%程度を占める。そのため経験的な治療として選択される薬剤は、これらをカバーし、なおかつ腹水中へよく移行するものを選択しなければならない。
      1. CTRXで腸内細菌の多くをカバー。S.pneumoniaeであってもこれをカバーする。
      2. 非発酵菌(具体的には、P.aeruginosa)が出てくると少しイヤだと感じるが、非発酵菌が関与する確率はかなり低い。
      3. 同じ理由で嫌気性菌をカバーする必要もない。
        • 採取した腹水が明らかに臭かったり膿瘍だったりする場合は、グラム染色の結果を参考に。
        • polymicrobialだった場合は、積極的に嫌気性菌をカバーしなければならない。
        • こうなると、もはやSBPとは云えないのかな……?
    • 血液培養も採取してください。治療期間については定まったデータが乏しいようですが、血液培養陽性例については2weekが提案されているようです。
      1. なぜ腹膜炎症状があるからといって腹水しか採取しないのか。腹水中に菌が証明されずとも、血液中に菌が存在することは少なくない。参考にした資料のひとつには、SBPの75%に血液培養陽性が見られるとあった。
      2. ここから推測される事象として、肝硬変そのものに免疫不全宿主としての特性があるものと考えられる。つまり、患者個人の病態を把握する上で、容易に菌血症を起こしうる状態である、という認識が必要であると考える。
    • 参考までに、サンフォード「熱病」にはSTの内服が提示されています。詳しくは「熱病」参照。


予後の悪い疾患なので、早めに見つけてあげたいものです。