骨盤腔内膿瘍を叩く

基本的に、産婦人科の領域になると思いますので、一般的な診療科で治療することはないのではないかと思います。妊娠してたりするとすごく専門的な治療になると思いますので、一般的な内容を大きく逸脱します。こうなるともはや産婦人科の独壇場ですね。場合によっては、感染症科かも。

基本的に膿瘍ですので、膿瘍に対する治療がまず最初に来ると思います。おもに患者側の条件に左右されると思いますが、ドレナージなしに治療することは困難ではないかと想像できますので、まずはこれを切開、排膿することが第一だと考えられます。排膿したモノをグラム染色するとよいでしょう。それでだいたい起炎菌の当たりを付けることが出来ると思います。

起炎菌として考えられるのは、まずは淋菌・クラミジア。性的に活動期である女性の場合は、このふたつは外すことが出来ません。淋菌にせよクラミジアにせよ、陽性であるなら、パートナーの治療も必要でしょう(STDの原則ですよね)。あとはグラム陰性桿菌、嫌気性菌が候補に挙がると思います。とくにグラム染色した膿瘍がPolymicrobialな場合は、嫌気性菌の可能性が上がります……と書いていますが、骨盤内膿瘍の場合、まず起炎菌は単一の菌ではありません。最初から嫌気性菌と性感染症を視野に入れた薬剤の選択が必要になってくると思います。

というわけで、グラム陰性桿菌、Bacteroidesを含めた嫌気性菌のカバーを考えるとどうしてもカルバペネムを使いたくなりますが、まずはCMZなんかはどうでしょうか。代表的な腸内細菌に加えて、Bacteroidesをカバーします。さいきんCMZ耐性Bacteroidesが増えてきていますので、少々心もとない気もしますが……で、CMZに加えて、テトラサイクリン系の薬剤を加えてクラミジアなどをカバーします。経験的には、この程度でいけるのではないかと。

年齢や患者背景によって選択される抗菌薬が変わってくるとは思いますが、まず押さえておかないといけないのは、「ほぼ必ず嫌気性菌が絡む感染症だ」ということです。よって第四世代のセフェムなどを単在で使うと、いつまでたってもすっきりしないということになりかねません。第四世代セフェムとカルバペネムの差がはっきり出てくると思います。


恒例の、ちょこっとツリー。

  1. 骨盤内膿瘍を叩く
    • そもそも診断の難しい疾患であり、典型的な臨床症状がそろうことは珍しいとされるため、つねに疑ってかかることが必要な疾患。
    • まず性感染症が初発にあって、そこから二次感染的にグラム陰性桿菌や嫌気性菌が関与すると考えられている。
      • そのため、性的に活動期にある女性に対しては、そっち方面のフォローが不可欠。
    • 起炎菌には嫌気性菌が絡むことが多い。治療の際には、嫌気性菌をかならずカバーする。
      • 基本的に膿瘍なので、切開排膿、もしくは穿刺吸引が原則。それをグラム染色してやれば、何を使って治療したらいいのか、おおよその見当がつく。
      • 仮に検査室が嫌気性菌を報告してこなくても、嫌気性菌の関与を思考から外してはいけない。グラム染色の結果や検体の様子(匂いや外観など)、患者背景などを総合して判断しなくてはならない。
      • 重症感染症にはカルバペネムか第四世代セフェム、なんて思っていると、治療に反応しなくて頭をひねることになる。第四世代は嫌気性菌、とくに横隔膜下の嫌気性菌であるBacteroidesにはほとんど活性がない。メジャな第四世代、CZOP、CFPMの両方が無効。カルバペネムならOKだが、出来るだけカルバペネムは使いたくない。
    • 患者が妊婦である場合がもっとも難しいか。このような場合はお手上げです。専門家にコンサルト。