SIRの功罪(投与量について)

日本の投与量は米国と比べてとても少ないんだ、ということは再三にわたって書いていますが、この意見は日本ではなかなか受け入れてもらえないようです。典型的な反論は、「米国人と日本人の体格差」ですが、投与量が何倍も変わるほどの体格差があるのでしょうか。たとえば、CEZの投与量は、あちらさんでは1.5g×4/dayで1日量は6gですが、日本ではみんな1g×2/dayで投与しますね?投与量が3倍も変わるほど、体格差って影響があるのでしょうか?セフェムは血中濃度が高くなると痙攣などの副作用を起こしますが、腎臓排泄の薬剤なので体格差よりも腎機能の方がシビアに影響すると思います。体格差という理由は、ちょっと疑問が残ります。

まあ、そんなことよりも薬理学的に見てもおかしいのです。IPM/CSなど半減期は1時間しかないのに、なんでみんな0.5g×2/dayで投与するのでしょうか。少な過ぎやしませんか?ちょっとMICが高い菌だったら、それだけで効かないと思います。

日本でもCLSIが提供している薬剤効果判定が受け入れられるようになってずいぶん経ちますが、これを誤解しているひとは大勢います。すなわち、「R判定の薬剤は絶対に何をやっても効かない」。これは間違いですね。それと同じくらいの頻度で、「S判定の薬剤はどんな投与法をしても効く」と思っているDrもいます。つまり、根本的なところで「薬剤は効くか効かないかの二択である」という誤解があるように思います。私のイメージでは、境界はありません。つまり、患者側の条件、抗菌薬の使い方でどうとでもなる部分がかなりあって、その部分が話しをややこしくしています。SIR判定はきわめてわかりやすい概念ですが、それだけに多くの誤解も生んでいるのです。

それに、もともとSIR判定って、CLSIが定めた基準なんですよねえ……米国が定めた基準なんですよ?その基準は、米国での投与量が基本になっています。I判定された薬剤は用量依存性と解釈されますが、米国の投与量でI判定されたなら、日本の投与量ではまず効きません。米国での投与量を基準に作られている判定なのに、投与量が違う国(しかも圧倒的に少ない国で!)で標準法としてまかり通っているのです。おかしな話しですね。