CD toxinについて

病院関係者を悩ませる検査のひとつに、CD toxinがあります。おもに抗菌薬投与後に発生する下痢に対してCD toxinを検出する目的で実施されますが、解釈がややこしい検査のひとつです。抗菌薬関連腸炎という概念もややこしい(というか、悩ましい)概念なのですが、大雑把でもいいので把握していると、検査結果に振り回されずに済むと思います。

まずCD toxin(+)がどれくらいの意味合いを持っているかというと、「検体の中にCD toxin Aが存在します」くらいの意味合いしかありません。決して偽膜性腸炎の存在を明らかにするものではありませんし、将来的に下痢症を発症することを約束するものでもありません。ここがまず間違いその1。従って、下痢もない無症候性キャリアにスクリーニング的に実施することは、まったく意味がありません。またCD toxin Aが陽性だからといって、将来100%抗菌薬関連腸炎を発症するかと云えば、そんなこともありません。従って、無症候性キャリアに対してVCMを投与するなんてことはもってのほかです。VREの出現を助長する、とても恐ろしい行為です(VCM散は高価な薬ですし)。

検体中にCD toxin Aが検出されたとしても、症状がなければまったく恐れることはありません。CD toxinの検出は、検査前診断が重要な検査のひとつです。決して魔法のように抗菌薬関連腸炎/下痢を検出する、万能の検査ではありません。そこをちゃんと押さえておいてもらえれば、陽性の報告を聞いて、「え、ほんとですか?」なんて返答は返ってこないはずです。


恒例の、かるーいマトメです。

  1. 抗菌薬関連腸炎/下痢とは
    • 抗菌薬投与にともなって発症する腸炎、もしくは下痢症のこと。
    • C.difficileは主要な原因菌のひとつ。すべての原因菌ではないことに注意。
    • 腸管内常在菌の現象にともない、異常増殖したC.difficileが毒素を産生することで病原性を持つ。
      1. CD toxin Aはエンテロトキシン(腸管毒)
      2. CD toxin Bはサイトトキシン(細胞毒)
      3. 近年、第三の毒素と呼ばれるbinary toxinが注目されているらしい
    • キットで簡易に検出出来るのは、CD toxin Aのみであった。つまり、いままではtoxin A(-) toxin B(+)は見逃されてきた。
      • これについては、さいきんニッスイからtoxin Bも検出出来るキットが発売されて、感度、特異度などが注目されている。ウチはしばらく傍観の予定(ひよひよ)。
    • C.difficileによる抗菌薬関連腸炎は偽膜性腸炎に発展するが、C.difficileによる腸炎すべてに偽膜を認めるわけではない。
    • 臨床像は、軽度の下痢症、腸閉塞、イレウス、腸管穿孔、果ては死の転帰までさまざま。
    • さいきん話題に上がった強毒株は、binary toxin(+)、CD toxin A、CD toxin Bの産生量が通常のものと比べて多かった、とのこと。さらにキノロンに耐性で、キノロン使用にともなう菌交代で発症するケースが報告された。
    • 強毒株による症状は下痢にとどまらず、イレウスや腸管穿孔をともなうようだ。通常、検査室レベルの検査では強毒株かどうかを判定することは出来ない。
    • CD toxinは非常に不安定な物質であり、室温に2時間置くと検出出来なくなるらしい。冷蔵保存が原則。
    • 検査はあくまで、「検体中にCD toxin AないしBが存在するかどうか」というだけに過ぎない。マイナスであっても、菌は常に存在しうることを念頭に置いておかなければならない。
    • CD toxinの存在は必ずしも大腸炎の医学的所見と一致しているわけではない。CD toxinの存在は、疾患の存在を明らかにするものではないことに注意する。最終的には臨床症状がすべて。
    • 従って、無症候性キャリアに対するスクリーニングは必要ない。
    • MRSA腸炎だ!と騒ぐ前に、ちょっとだけ冷静になってみて下さい。安易にバンコマイシンを使うのはとても危険です。