細菌検査にまつわる3つの誤解

細菌検査は誤解されがちな検査です。というか、大抵の場合、とんでもない誤解のされ方をしている気がします。その誤解は誰かがたださなければならないのですが、過去の経験に基づいて間違うことの多い医師の誤解をコメディカルが解くことは、並や大抵ではありません。というか、たぶん無理でしょうね。たいていの医師は、臨床経験のないコメディカルの意見を聞かない傾向があります。

というわけで、その誤解を列挙してみましょうか。都合により、いまは肺炎に限定しましょう。

  1. 培養結果は絶対ではない。
    • 抗菌薬を入れる前の、唾液混入の少ない良質な喀痰のグラム染色像で貪食されている菌だけが、起炎菌である可能性を示唆する。
      • 唾液を培養しても意味がない理由がこれ。感染は肺で起きているのであって、口の中で起きているわけではない。口の中で定着している菌が培養される可能性が高く、意味がないどころかノイズを拾ってしまう。口腔内の汚染がひどい高齢者などはとてもまぎらわしい。
    • 抗菌薬を入れた後は、使っている薬に耐性の菌だけが検出される。
      • 代表がMRSAやMRSE。これらが純培養状に出てきたところで、ほとんどの場合は意味をなさない。なぜならそれはほとんどの場合が常在菌が死滅した隙間に入り込んで増殖した定着菌であり、ほんとに肺炎を起こしているかどうかは誰にもわからないからだ。貪食されていれば、起炎菌である可能性が高まる。
      • 肺炎治療中のルチンな喀痰培養には、あまり意味があるとは思えない。
    • 菌量が多いからといって、起炎菌な訳ではない。当たり前だが。
  2. 感受性試験結果は絶対ではない
    • SIR判定を絶対のものとしてみない方がいい
      • Rの薬は何をやっても効かないのかと云われれば、そんなことはない。生理的に濃縮されたりして、超高濃度になれば効く場合もあり得る。尿路がその代表。
      • 逆にSだったら何をやっても効くかと云われれば、そんなことはない。日本の医者が大好きなセフェムも、朝夕2回/dayの投与だと、S判定でも臨床的に無効なり得る。
    • S判定の薬が効いていないときは闇雲に薬を変えるのではなく、薬が作用出来ないファクターを考えた方がよい。ここでカルバペネムを使おうものなら、起炎菌検索はほぼ迷宮入りする。
      • 血行動態が不安定なとき、すなわちDICだとか敗血症性ショックなどがある場合は、この限りではない。当たり前だが。
  3. 迅速検査は絶対ではない
    • A群溶血性レンサ球菌やβ-Dグルカン、CDtoxin検出、各種ウィルスの迅速検査は、感染症を見つけるための魔法の検査ではない。
    • 「検査前診断」が重要であり、やみくもに出すとノイズ(偽陽性)に悩まされることになる。
    • ハイリスク患者に適した検査を出すことで、その有用性はぐっと高まる。決して、心配だから、などという理由で繰り返し検査することは適切とは云えない。
    • また感度・得意度がよいとは決して云えない検査も存在する。このような検査も、やみくもに出すべきではない。たとえばCDtoxinの迅速検査も、下痢もしていないのに抗菌薬を投与しているからという理由で出すと、下痢もない、普通便の検体なのに陽性に出たりする。CDが陽性だからという理由で、下痢もないしぴんぴんしている患者にVCMを内服させたりすることは、決して適切とは云えない。


ごくごく普通のことですが、じっさいに採取した検体を見たことがない、という主治医にとっては、異次元の話しでしょうね。感染症は患者を見なければ治療することは不可能です。結果ばかりを過信すると、おもわぬところで足をすくわれることになります。