レンサ球菌敗血症

もはやいわずもがな、これは現実の症例とは何の関係もありません。これ見て起きた何事にも責任を取りかねますので、自己責任で閲覧してください。お願いします。

生後五ヶ月の乳児に発生した、レンサ球菌敗血症です。正確な背景は不明ですが、外来受診時にはCRPが20(μg/ml)、WBC:29000でした。血液培養・尿培養・咽頭培養・鼻汁培養を採取して、FUO(不明熱)扱いで即座に入院になっています。

血液培養は、培養を開始して1日経たずに陽性になりました。そのグラム染色像がコレ。この時点で髄膜炎は起こしていません(検査結果が髄膜炎っぽくなかったというだけですが)。ですが、正直焦りました。小児、血液培養、レンサ球菌、とくれば、誰だって肺炎球菌を思い浮かべるでしょう。この時点で主治医にはレンサ球菌ということを伝え、抗菌薬について話しをしました。

使っていたのはCTXとABPCだったのですが(小児髄膜炎仕様ですね)、起炎菌がいまいち絞りきれなくて困りました。見ての通り、肺炎球菌にしては少々おかしな感じです。首をひねりました。この時点で確定的なことが云えなかったので、主治医には正直にそのように伝えました。他に採取した検体からは、尿培養からはE.faecalisがべったり検出されています。鼻汁からはS.pneumoniaeが1+とB.catarrhalisが2+ほど、咽頭培養は口腔内の常在菌のみでした。うーん。全身状態を尋ねても、敗血症の割にはそれほど重篤感がないといいます(若干矛盾した表現ですが)。この時点で経験があまりない私は十分困ってしまったのですが、この患児にはさらに困る要素があったのです。

なんと、ABPCで薬疹を起こしてしまったのでした。そのため、投与後しばらくしてABPCを取りやめています。つまり、いまはCTXしか使っていないわけです。さあ困りました。このレンサの正体がStreptococciならいまのままでも問題ありません。でも尿培養からE.faecalisが出ています。グラム染色も、肺炎球菌っぽくありません。もちろん他のStreptococciという可能性もあります。でも、万が一Enterococciだった場合、CTXだけじゃ効果がない……!

かなり本気で悩みました。主治医は菌名が出るまでCTXで押すのでいいんじゃないか、といいます。全身状態もクリティカルではないし、状態が許すのであれば、それもぎりぎり許されるかもしれません。ですが、生後五ヶ月です。原因菌次第では、いつ髄膜炎に移行するか、知れたものではありません。かなり悩みまくったあげく、主治医とあーでもないこーでもないと相談し、最終的にはIPM/CSを使うことになりました。最終的な決断は有名な先生に相談したらしく、体重で使用量を調節し、IPM/CSを1日4回投与。理論上は効くと思いました。苦肉の策です。成人ならVCMになるかと思いますが、VCMを生後間もない患児に使うのは難しいのではないかと思いました。じっさいのところは、どうなのかわかりません(VCMの代謝は、小さい子供では早くなるようです)。

夕方血液寒天に生えてきたコロニーを使ってランスフィールド抗原をあわせたところ、D群でした。この時点でほぼEnterococciだと思いますと主治医に連絡。このままIPM/CSを使うということに。

最終的な培養結果は、E.faecalisでした。尿培養にもっさり生えていましたが、これが菌の侵入門戸なのかどうかはわかりません。尿培養中に白血球が見えなかったからです。敗血症にともなって尿に出てきただけなのか、ここが本当に侵入門戸なのか……膿瘍の検索とか必要じゃないのかなとも思ったのですが、それから検査をしたのかどうかはわかりません。CRPはほぼ陰性化し、快方に向かっているようです。

しかし、ABPCが使えないEnterococci感染症ってやっかいです。ペニシリンアレルギー患者のEnterococci感染性心内膜炎とか、もう聞いただけでぞっとしますね。

追記

この場合、「なぜ」、尿にEnterococcusが出てきたのか、ということが重要で、いくつか原因が考えられるかと思います。私が走り書きした症例ノートには、

  1. ガチで尿路感染
    • 単純性膀胱炎としてもっとも確率の高いE.coliを差し置いてEnterococcusが出てくることはありえるか?
    • 尿路に隠れた器質的な障害はないか?逆流は?
  2. 敗血症の表現型のひとつとして、尿路に出てきただけ?
    • 敗血症の原発臓器はどこだ?
    • 腸管からのTranslocation?
    • 感染性心内膜炎は否定的か?
    • 腎膿瘍は否定的か?

と、書いていました。

といいますのも、予想通りというか何と云うか、熱発で再入院となりまして……こんどは器質的な障害も含めて検索するということです。使う薬に困っているようです……