感染源はどこだ?

いわずもがな、これは私が経験した実際の症例を加工して作り上げた架空の症例であり、一切がフィクションです。これを読んで発生したいかなる事象にも私は関係がありませんし、また責任も負えません。悪しからず。

さて、と。
恒例の(?)考えてみようシリーズです。今回は透析患者に発生したMRSA感染症ですが、これにグラム陰性桿菌が混合感染し、さらに困ったことに敗血症性ショックを起こしているという、非常にクリティカルな状態です。血液培養が陽性になったので主治医に連絡しましたが、そのときにはもうすでにショックを起こしていました。VCMの投与は当然のこととして、グラム陰性菌に対して何を投与するのかが問題になります。

で、今回も例によって患者の状態がよくわからないんですが、透析患者であること、免疫不全状態にあること、くらいしか情報がありませんでした。で、中心静脈カテーテルの培養も提出されており、塗抹鏡検でブドウ球菌とグラム陰性桿菌が見られます。まあブドウ球菌はココが感染源だと判断しても差し支えなさそうなのですが、問題はグラム陰性桿菌の感染源が「ココ」なのかどうかです。グラム染色上は腸内細菌に見えたのですが、もちろんそんなあやふやなことで薬の決定は出来ませんので、経験的には考えうるすべての菌をカバーすることになります。

私としては、「ココ」がカルバペネムの使いどころだと思うのですが、どうでしょうか。こういう急性増悪例、しかもショックを起こしている事例は脊椎反射でカルバペネムを使ってOKだと思います。考えている時間すら惜しい。というか、とりあえず抗菌剤入れてから考えましょう。もちろん、検査用の検体を採ってからですが、間に合わなくてもがんばって検体を採取する努力は必要かと思います。教科書的には、IPM/CS:0.5g*1/dayでしょうか。

さて、フォーカスはどこか、が敗血症のマネージメントでは重要になってくるのではないかと思います。コントロール可能な感染源があるなら、それを何とかしなければなりません。膿瘍は取り除き、異物は除去する。今回は中心静脈カテーテルからグラム陰性桿菌が検出されていますが、それだけではグラム陰性桿菌のフォーカスがココだと断定は出来ないのではないかと思います(もちろん可能性はあるはずですが)。敗血症のフォーカスとしてもっとも数の多い臓器は肺、次いで腹腔、尿路です。気道系から起きるグラム陰性桿菌の菌血症はK.pneumoniaeやP.aeruginosaなどが半数を占めるとされますし、腹腔から起きる菌血症に関してはE.coliやBcateroidesが多いです。尿路にE.coliが多いのは有名ですね。塗抹鏡検から腸内細菌が疑わしいと思いましたので、尿路や消化器系の検索はしておくべきでしょうか。尿路にカテーテルでも入っていたらやってらんないですしね。

ああ、だんだん考えがまとまってきた気がする……

  • グラム陰性桿菌が血液培養から出てきたよ
    1. 患者の状態によってカバーする範囲が決まる
      • ショックを起こすような増悪例にはカルバペネムでOKだと考える。腎臓が許すなら、IPM/CS:0.5(g)*4/dayか。
        • カルバペネムは時間依存性の薬剤であり、頻回投与するのが原則。セフェムを朝夕1日二回投与するのに慣れている医師はカルバペネムも同様の投与法をとる場合が多いが、生きるか死ぬかをかけた状況下では不適切だと思う。
        • MEPMだったら一日量を三分割投与。IPM/CSとMEPM、どちらを使うかはローカルファクタによる。
      • 免疫不全、とくに好中球減少患者は緑膿菌をカバーするのは必須。よって抗緑膿菌剤+アミノグリコシド
      • 感染源が推測出来るなら、もっとも可能性の高い菌に対して加療する。
    2. 抗菌剤とは別に、感染源をコントロールする
      • とりあえず、血眼になって感染源を探しましょう。最後までわからないことも少なくないようですが。
      • HACEKグループが出てきたりしたら、経食道エコーとかも必要かなあ?
      • 膿瘍があったりしたら、外科的にドレナージしないことにはどうにもならないことが多い気がする
      • 尿路にカテーテルがあったりするとツライ。培養はとうぜん出すとして、尿が混濁していたらカテは差し替えた方がいい気がするが、根拠なし(たぶん探せば文献があるはず)
      • 鼠径部に刺したカテーテルは汚染率がものすごく高い。出来るだけ鼠径部はやめた方がよい。もしココしか無理なのであれば、毎日の観察をかなり念入りに行う。感染徴候があったら即座にフォロー。
      • 日本ではエンドトキシン吸着療法が行われるようだが、敗血症のコントロールに有用であるというエビデンスはないようだ。大規模な研究待ち。