脳膿瘍を叩く

いわずもがな、コレを真に受けるアホはいないと思いますが、これ見て起きた何事にも責任は取れませんので、そこんとこよろしく。あくまで勉強のために書いていますので。


で、お決まりの儀式も終わったところで。

脳膿瘍ですが、私のいる病院で見ることはほとんどありません。ありませんが、ひとたび発症すると、なかなか厄介な感染症です。ドレナージが原則ですが、ドレナージしてもなかなか治りませんし、モノが脳みそだけに抗菌薬もあまり効果がありません。そこらへんを考慮して考えてみます。

まず起炎菌ですが、これはもうさまざまだと思います。ただ嫌気性菌が関与する比率が高いのではないかと思いますので、抗菌薬は自然と嫌気性菌を叩けるものを選ぶ必要があるでしょう。グラム染色の結果をどこまで重視するのか、コレに関しては議論の分かれるところです。はっきり云って、グラム染色は意外にあてになりませんから。

つまりグラム染色で当たりを付けても、他の菌が隠れている、なんてことがあり得るわけです。グラム染色で弱々しく染色されたグラム陽性球菌(レンサ状、双球菌状)、グラム陽性桿菌だけが見えたとしても、だからPCGだけでオールOK!なんてことにはならないわけですね。この場合はPeptostreptococcusやActinomycesが疑われるわけで、コレだけならPCGの大量投与(2400万単位6分割?)でOKだと思いますが、やっぱり怖いわけです。私もようコメントしません、そんなこと。グラム陰性桿菌、たとえばBacteroidesあたりがいたら、それだけでアウトですから、慎重になります。とくに嫌気性菌は染色態度が不定で、グラム染色性はあまりあてにならないことが多いんです。そこらへんを臨床側は理解しておいてほしいです。心情的には、こちらも非常にツライです。

というわけで、嫌気性菌の関与が疑われるとき、おおむねメジャな菌をカバーする意味で、ABPC/SBTなどの大量投与などいかがでしょう、と思うわけです。ID-conferenceという超高度な議論が展開されるブログがありますが、そこではおおむねこのような内容がコメントされていました。一日量にして、12-18gのABPC/SBTを、4分割で投与でいかがでしょうか。保険診療の上限はおそらく6gなので、はるかに超える量になりますが、ブログ内でコメントされている通り、保険診療の範囲内で脳膿瘍の抗菌薬治療が可能だとは思えません。カルバペネムだと可能かと云われると、やはり無理でしょ、と思います。カルバペネムも同様に大量・頻回投与になると思います。

日本の投与量に関する問題は根が深いです。医師のストレス、察するにあまりあると思います。


若干まとめシリーズ。

  1. 膿瘍の基本はドレナージ。これは脳みそでもいっしょ。
    • おおむね、抗菌薬は膿瘍が苦手。酸性条件下で効果の落ちる薬剤も多い。
    • 余談だが、VCMも膿瘍が苦手。というか、その作用機序のために、ぶどう状に連なっているとすぐに効果が減弱する。
  2. グラム染色で嫌気性菌の関与が疑わしい場合、その内容は口腔内の常在菌であることが多い。
    • 上記のPeptoとActinomycesはここらへんが根拠。
    • これだけならPCGで大丈夫なんだけど……悩ましい。
  3. というわけで、抗菌薬はABPC/SBTの大量投与、という結論になります。
    • PCG+メトロニダゾールという選択肢もありえるかと思いますが、一般的にメトロニダゾールは注射薬がありません。経口吸収はいいと聞いたことがありますが、実際にお勧めする気にはちょっとなれない……
    • というか、勧めた瞬間に医師から猛反発食いそう。
  4. カルバペネムはどうかというと、まったく問題ない。
    • いちおうカルバペネムを温存するためにこんなややこしいことを考えているわけですが、まあエンピリックにカルバペネムを使ってもいい状況のような気がします。
    • 使うなら、MEPMでしょうか。たぶん1gを3回投与になると思います。