メトロニダゾール

術後の予防抗菌薬について検討しているんですが、検討段階でいろいろ勉強になったことがあります。医師の立場になって考えてみるとよくわかるんですが、医師は術後感染症を防止したいがために、やたら広域の薬剤を投与する経口がありますね。これはどこの病院でも同じだと思います。白内障の術後にFMOXなど見たことがありますが、これは明らかにやりすぎだと思いますし(嫌気性菌までカバーする必要性がまったくない)、抗菌スペクトルはもちろん、薬物動態や値段まで考慮しないといけないので、選定には総合的な理解が求められます。まあ考えてみたところで、世の中にあるマニュアル以上の答えは出てこないのですが、その過程が重要なわけです。

で、そうやって考えていくと、日本の抗菌薬の現状には、いくつかの大きな問題があることに気がつきます。こんかいはたまたま考えていたテーマがCDAD(抗菌薬関連腸炎)だったのでメトロニダゾールなのですが、いま感染症治療に携わっておられる方々の共通認識として、C.difficileが原因になって怒る偽膜性腸炎(もしくはCDAD)の第一選択薬はフラジール、メトロニダゾールです。VCM散も使えますが、耐性菌(VREやVRSA)の発生を防止するためには、望ましくはありません。これは議論に参加する医師がほぼ満場一致で認める共通認識です。ところが、日本の保険適用では、メトロニダゾールをCDADに使うことが出来ないのです。これは非常に深刻な問題だと云えます。いやでも治療にVCMを使わざるを得ないのですから。

またメトロニダゾール静注がないのも問題だ、という議論も、あちこちで散見されますが、これも根が深い議論になります。また勉強して書いてみます。


恒例の、若干まとめです。

  • C.difficileに対して活性があるため、偽膜性腸炎、CDAD(抗菌薬関連腸炎)の第一選択薬。
    1. 偽膜性腸炎は病理学的な診断名。内視鏡で偽膜形成が確認出来ない場合は、偽膜性腸炎とは診断されない(と思う)。
    2. 偽膜がないからと云って、抗菌薬関連腸炎を否定する理由にはならない。
    3. CDチェックは絶対ではない。疑わしい症例は、検査室にC.difficile培養を依頼してみるのもテかも。
      • とてもメンドクサイ上に、名前の通り、C.difficileは培養が難しい。陰性でも泣かない。
      • とてもメンドクサイ上に、コストがかかる。検査技師が嫌がるかもしれないが、断られても責めないで。
      • 毒素を産生しないタイプのC.difficileも存在する。そういった意味で培養も万能ではないことに注意。
        • C.difficileが培養された液を前処理してtoxinAを引っ掛ける方法もある。が、そこまでする意味があるのかは疑問。ここまでやるともはや研究レベルでは?
      • 培養でtoxinBの存在を確認するためには、細胞培養が必要だということになる。これは普通の検査室には無理。
      • 病棟でCD(+)が流行しても泣かないでがんばって。
    4. CD toxinにはBもある。CDチェックでひっかけられるのはCD toxin Aのみだということに注意。
    5. フラジールはCDADに適応がない。DPC実施施設以外で、CDADにフラジールを使うのは難しいかもしれない
    6. 女性ならトリコモナス膣炎が使えるが、男性じゃあねえ……
      • なんでも、心ある施設ではトリコモナス膣炎が頻発するんだそうな。
      • 場合によっては、男性までなったり。ほんとに審査が通るのか、コレで。
    7. フラジールの薬価は、VCM散の100分の1である。金額的にはまったく問題なし。
      • 非常に安価なため、営業さんから感謝されることは皆無だろうなー。
      • ところで、これってコスト削減ということで、まっさきに実施されてもおかしくないんじゃないの?
    8. MRSA腸炎が疑われる症例については、たぶんVCMしか選択がない(フラジールはMRSAに対して無効である)。
    9. CDADの第一選択薬は、使っている抗菌薬をやめることかもしれない。